ダイキンによる淀川流域河川のPFOA汚染
2000年に秋田大学から京都大学に赴任することになり、当時環境生態系での運命について十分研究されていないPFOSおよびPFOAを軸に研究することにした。これら物質について全国的に調査する中で、淀川水系、特に神崎川水系で、PFOAの非常に高濃度の汚染が見いだされた。04年の事である(図1)。神崎川は、大阪府と兵庫県尼崎市の境を流れる川で、兵庫県側の上流は、猪名川の支流で園田を流れる。一方大阪側では、上流は安威川であり、安威川が他の河川と合流し神崎川となり、その神崎川に猪名川が園田あたりで合流し大阪湾にそそぐ。
PFOAの汚染源をたどると、安威川広域下水処理場が排出源であること(図1)、汚染源は、他の調査と合わせてダイキンであることが判明した(図2)。この汚染は、阪神間の飲料水の源泉である淀川領域を広域に汚染し、飲料水曝露の結果、大阪の住民のPFOAの血清中濃度を、仙台や高山に比べて非常に高めていた(図3)。
ダイキンによる阪神間の飲料水汚染の問題は、新聞(図2)で報道され、07年には多くの人々の知るところとなった。この環境問題に本格的に取り組んだのが、当時大阪府会議員の堀田文一氏(日本共産党)である。彼は我々の報告に対して迅速に反応し、我々を府議団勉強会の講師に招聘した。07年の夏のことである。
筆者は、共産党府議団での勉強会で世界の動向、および大阪でのPFOAの汚染の広がりの大きさを訴えた。その後、07年秋に府議会で堀田氏は、ダイキンによる飲料水汚染問題を環境問題として取り上げた。ダイキンは、05年時点ですでに我々の論文報告を知っており、05年3月にニューオーリンズのSociety of Toxicology で有機フッ素業界団体(3M、デュポン、ダイキン、旭ガラスなど)の中毒学研究者との懇談会で意見交換を行った。ダイキンは、汚染実態の深刻さから安威川広域下水処理場への排出を低下させていたが、PFOA製造からの完全撤退には至らなかった。堀田氏の府議会での質疑を受け、ダイキンは製造中止を加速させる決定を行うことになった。その結果、2010年までには工場から環境中への排出量、製品中含有量の両方の低減を、15年までには全廃とし、2010年を基準年に95%の削減を公表した。これらの社会状況の中でPFOAの汚染は改善し、急速にPFOAの血清中濃度は低下することになった。
今思えば、堀田氏の質問は、さらに大きな波及効果を持つことになった。当時関経連の会長の交代時期でダイキンの会長が有力候補であったが、環境汚染報道と自社の国際展開への転換の方針決定のため関経連会長を固辞する事態となった。その結果、当時の太田房江知事の関経連挙げての選挙応援体制がほころび、ご存知のように橋下徹府知事の誕生となった。
図1 淀川水系のPFOA汚染
安威川広域下水処理場
安威川
ダイキン
淀川
図2 ダイキン周辺のPFOA環境汚染を報じた2007年の新聞記事
東淀川区の瑞光寺でのサンプリング
同区の寂光寺でのサンプリング
図 3 血清中のPFOA濃度(ナノグラム/mL)