配膳車は押すのではなく、引きましょう!
(80歳代後半女性)
〈事故の概要と経過〉
当該患者は、上腕骨頚部大結節骨折と大腿骨頚部骨折の疑いで入院していたが、半月後には退院する予定だった。事故発生日、調理師がエレベータ前の廊下で配膳車を停車させ、移動させるために左右に若干動かしたところ、配膳車の前にいた患者が驚いて転倒した。患者は左大腿部転子部骨折となった。腰椎麻酔で手術を施行、その後退院して症状は固定した。
患者側は医療費等、額は明確でないが賠償を請求してきた。
医療機関側は、調理師が配膳車を移動させる際に、周囲の確認を怠ったとして管理ミスを認めた。今後、予防対策マニュアルを周知徹底し、配膳車を移動させる場合はよく前後左右を確認した後に、押すのではなく手前に引く対応を遵守するとのことだった。
紛争発生から解決まで約1カ月間要した。
〈問題点〉
当初、医療機関側は配膳車が患者に接触したと考えていたが、当該施設で実験したところ、配膳車を左右に動かした程度では、患者が静止している限りは接触しないことを確認した。したがって、患者は、急に配膳車が動いたので驚いてバランスを崩して配膳車に自らぶつかって転倒した可能性が高いと推測された。
このような場合、調理師が患者に配膳車を直接衝突させたわけではないので、患者の自己責任の要素も考慮すべきである。
一方で、院内のマニュアルには配膳車等を移動する際は前方を注意し、押すのではなく引くこととあり、明らかにマニュアルに違反している事実も認められる。仮に調理師がマニュアルを守り前方確認を怠らなければ、事前に患者を発見でき、今回の事故は発生しなかったと言える。
〈結果〉
医療機関側が配膳車の取扱いに不適切があったとして過誤を認め賠償金を支払い示談した。ただし、患者の転倒について、医療機関側に一部賠償責任が認められても全面的に責任があるとは言えなかった。