保険診療Q&A 388  PDF

輸血説明文書の署名原本の取扱い

 Q、「輸血の説明に用いた文書については、患者(医師の説明に対して理解が困難と認められる小児または意識障害者等にあっては、その家族等)から署名または押印を得た上で、当該患者に交付するとともに、その文書の写しを診療録に貼付する」となっています。しかし、医療安全上の観点から、署名してもらった原本は院内に保管しておくべきだと思うので、当該患者に交付する文書は、患者もしくはその家族等から署名または押印を得た原本ではなく、その文書の写しでもよいでしょうか。
 A、原本を交付するよう記載されているので、よいとは言えません。もし院内にも原本を保管しておきたいのであれば、輸血の説明に用いる文書は同じものを2部用意し、2部どちらにも患者(もしくはその家族等)から署名または押印を得た上で、1部を当該患者に交付し、残りの1部を院内保管するようにするとよいでしょう。

医師が選んだ医事紛争事例 96
血液検査なしにネオメルクを処方して…

(30歳代前半女性)
〈事故の概要と経過〉
 当該患者は身長168㎝、体重105㎏であったが糖尿病はなかった。A医療機関からの紹介で、当該医療機関にて角膜移植術を施行し、数カ月後に免疫抑制剤ネオメルクR50㎎1錠の内服処方を開始した。自宅が遠方であったので、当該医療機関への通院は2~3カ月に1回程度であったが、それ以外は自宅近医のA医療機関から薬剤を処方されていた。処方はその後終了した。その間、当該医療機関でもA医療機関でも血液検査は実施されなかった。その後に体調が悪くなり、B医療機関を受診したところ、腎臓が萎縮しており、緊急かつ生涯維持透析が必要となった(その時点でGFR≒0と推定される)。
 患者は透析で週に3回ほど受診することになった。また、B医療機関の内科医師は、患者側に、腎不全の原因は免疫抑制剤であることを示唆したとのことだった。
 患者側は、免疫抑制剤投薬後に定期的採血を施行していれば、腎臓萎縮はもっと早期に発見できたはずで、このままでは労働も結婚もできないとして、問責してきた。
 医療機関側は、血液検査を行わなかったことは過誤であると判断した。血液検査を施行しなかった理由として、ネオメルクRを処方していた他の患者に異常は認められておらず、検査をしなくなっていたとのことだった。
 また、A医療機関の眼科医師も、眼科では珍しい薬剤なので、ネオメルクRのリスクを詳細に把握していなかった様子が窺われたとのことだった。
 紛争発生から解決まで約2カ月間要した。
〈問題点〉
 ネオメルクRを処方したにもかかわらず、全く血液検査をしなかったことは、その理由の如何を問わず過誤である。50㎎という量で副作用が発症したことは患者の素因も考慮すべきであろうが、処方前に患者の腎臓に異常を認めるデータはなく、免疫抑制剤と腎臓萎縮、すなわち生涯維持透析に至ったことは因果関係があると判断せざるを得なかった。
 もし、血液検査を施行していれば、異常をより早期に確認でき、投薬を中止して、生涯維持透析に至らなかったと推定される。本来ならば、A医療機関でも血液検査をすべきであったと主張して、当該医療機関の責任を若干でも軽減することは可能であろうが、患者は当該医療機関のみを問責しており、かつ後医批判をしても解決が長期化・拡大するだけである。当該医療機関もその意思がなく、当該医療機関の問題として対応するのが適切と考えられた。
〈結果〉
 医療機関側が全面的に過誤を認めて、賠償金を支払い示談した。

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