天道是邪非邪 小泉 昭夫(中京西部) 環境汚染編⑥  PDF

難分解性汚染物質
PCBなどの現状

 過去のPCBやDDTが長期環境に残留(難分解性)し、地球規模で土壌および海水などの水循環や大気循環などを介して離れた地域に環境汚染を引き起こし(長距離移動性)、食物連鎖などにより人や野生生物の脂肪組織に蓄積し(生物蓄積性)、発がん性、催奇形性、生殖毒性(毒性)をもたらした経験により、こうした物質に共通した有害性をまとめてPersistent Organic Pollutants(POPs)と呼び、2001年に世界各国で共同して規制に乗り出すことにした(ストックホルム条約:POPs条約と言われている)。ストックホルム条約の加盟国では、製造・使用、輸出入の原則禁止(附属書A)、製造・使用、輸出入の制限(附属書B)、新規POPsの製造・使用防止のための措置、非意図的生成物(附属書C)の排出の削減および廃絶、ストックパイル、廃棄物の適正処理(汚染土壌の適切な浄化を含む)、PCB含有機器については、25年までに使用の廃絶、28年までに廃液、機器の処理(努力義務)、適用除外(試験研究、使用中の製品、国別適用除外)を履行する義務を負っている。
 19年の段階で、廃絶すべきPOPsとしてアルドリンなど28種類、制限すべきものとしてDDTやPFOSがあり、非意図的生成物で7種類が登録されている。また現在、POPs候補として3物質が議論されている(表)。
 最近登録されたPFOSは、本物質が化学的に安定なために、衣類などの撥水剤、消火剤などとして利用されてきた。POPsの多くは、以下に述べるようにPFOSやPFOAを除き、環境中濃度や生体の曝露濃度も減少し続けている。POPs条約による効果と考えられる。一例として母乳中の総PCBの経年動向を示した(図)。
 我が国においても、POPs条約の加盟国として、化学物質の環境汚染を未然に防止するため、1973年に化学物質の審査及び製造の規制に関する法律(化審法)が制定された。化審法では、環境中への放出を回避すべき物質として、第一種特定化学物質を定めているが、これらの物質は難分解性、高蓄積性、人への毒性または生物濃縮という特徴を有し、ほぼストックホルム条約により規制されるPOPsに一致する。
 難分解性環境物質の削減のためなされたPOPs条約は、目的を十分に果たしており、国際的に協調して取り組むことの大切さを雄弁に物語っている。本条約の効果としてグローバル企業の環境負荷軽減を促進した点は、注目に値する。

表 ストックホルム条約対象物質
文書 摘要 物質
附属文書A 廃絶 アルドリン、クロルデン、ディルドリン、エンドスルファン、リンデン、マイレックスなどシロアリ駆除や農薬およびPCB、短鎖塩素化パラフィン(SCCP)、ペルフルオロオクタン酸(PFOA)とその塩及びPFOA関連物質など28種類
附属文書B 制限 DDT、ペルフルロオクタンスルホン酸(PFOS)とその塩、ペルフルオロオクタンスルホニルフオリド(PFOSF)(PFOSについては半導体用途や写真フィルム用途等における製造・使用等の禁止の除外を規定)
附属文書C 非意図的生成物 ヘキサクロルベンゼンなど7種類
2018年の段階で検討中のもの ジコホール、ペルフルオロヘキサンスルホン酸(PFHxS)とその塩及びPFHxS関連物質

図 母乳中の総PCBsの経年変化
2019年3月現在 経済産業省ホームページより
Fang J et al. Env Sci Pollutant Res(2015)22 8989-9041

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