医療政策セミナーで情勢を分析 医療者は住民の社会保障要求の代弁者  PDF

 協会は4月26日、医療政策セミナーを開催した。本セミナーは病院幹部向けに不定期で開催するもので、セミナーには病院長ら医師3人を含む26人が参加した。今回は、講師として神奈川県保険医協会事務局次長の高橋太氏を招き「医療改革をめぐる現在の『断面』と医療機関の社会的『位置』」と題して解説いただいた。

 高橋氏は冒頭、自身の入院体験から、病院での24時間にわたる献身的な医療提供体制に敬意を表した上で、日本の医療費は決して高くないことを強調した。その一つの要因として、1998年の初のマイナス改定から16年の薬価差没収まで診療報酬を低く抑え続けられていることを紹介。現在では、医療政策が厚生労働省のみにより作り上げられるものではなく、そこにはヘルスケア産業育成につなげたい経済産業省や成長戦略につなげたい内閣官房等の思惑も見え隠れするとした。
 医療を含む社会保障費は「保険料」が主たる財源であり、保険料と公費の比率は2対1で、その使途が財務省に左右されないのが特長とした。一方で公費も入っているため、国の財政の影響を受けざるを得ないのも現状とした。国の予算は「借金」頼みで成り立っており、財政健全化、基礎的財政収支(プライマリーバランス)の黒字化の必要性が謳われて久しい。社会保障全体の財源を見ても、およそ19兆円のギャップが生じている。このままならば、医療であれば、医療費の規模縮小、診療報酬のマイナス改定や、負担の次世代への先送り、患者負担引き上げ等が求められてしまう構図とした。
 一方で国民負担率にも注目。OECD加盟35カ国中28位(15年度)と低く、国民負担率を上げることで福祉国家を築いてきた欧州諸国とを対比した。医療費総枠拡大には患者負担増(税・保険料)を伴ってしまうが、国民的合意を得るためにも、少なくとも窓口負担をゼロにしていく必要があるとした。国民に診療を介して接する医療機関、医療者には、国民から社会保障要求の代弁者、「護民官」の役割が期待されている。患者・国民との関係性を深め、信頼を高めていく必要が求められていると講演を締めくくった。

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