天道是邪非邪 環境汚染編④ 小泉 昭夫(中京西部)   PDF

どうしてアマゾンで水俣病が起こるのか?

 今一度、鏡の背面を思い出してほしい(図1)。この鏡は、重金属分析の結果、亜鉛を含む黄銅からなる鏡であることが明らかになった。しかし、不純物が多く、製錬方法は稚拙である。したがって、判定は保留ながら、西域からもたらされた鏡であると考えられる。この鏡は若干の水銀を含みヒ素も含んである。また鏡面の裏には、鳳凰とハープを奏でる天女が描かれている。この表面は金のメッキが施されている。この当時どのように金をメッキしたのであろうか?
 歴史的に、金アマルガム法が知られている。金は、水銀を近づけると容易に水銀に溶ける。水銀の濃度を調整し、溶かしたアマルガムを銀板の上に塗布し、350度程度に熱すると、水銀は蒸発し、そのあとに金が残る。これが金アマルガム法である。金アマルガム法は、水銀があれば、金をアマルガムして抽出することもできる。金を含む鉱石を細かく砕いて、水銀に浸すと、金アマルガムができる。金アマルガムから水銀を加熱して蒸発させれば金が残る。この原理を用いて、金は古代には製錬されてきた。
 南米のアマゾン流域でも、一攫千金を狙う人々により金はアマルガム法で採掘されてきた。特に1980年代後半から活発に金採掘が行われてきた(図2)。アマゾンのゴールドハンターは、小規模で技術もなく、簡単に水銀から金をアマルガム法で抽出するのである。
 天の声「水俣病は、有機水銀ちゃうの? チッソは、水銀を垂れ流してきたが、メチル水銀の件は最後まで隠しとうしてきたのではないか?」確かに、一理ある。重要なポイントだ。しかし、現在的には、環境中への水銀だけでも十分である。その理由は以下による。
 1970年代以前は、水銀の環境中での動態の知見が未熟であった。金属水銀が、環境中でメチル化されることは十分に知られていなかった。しかし、その後、地球規模での動態が研究され、水銀は生態系の中でメチル化されることが明らかになった。後知恵でいえは、金属のメチル化は、生物による無毒化のメカニズムとしてごく普通に現在では受け入れられる。その代表格が、ヒ素である。有機ヒ素は、ヒジキやエビ、カキなど多くの海産物に含まれる。ヒ素は、酸化の3価と5価のヒ素が有名であり、亜ヒ酸〔AS(OH)3〕は、3価であり、毒性は非常に強い。この一方、魚介類に含まれるヒ素は生物の体内でメチル化およびカルボン酸等で有機化されたメチルヒ素やアルセノベタインなどである。後者の毒性は極めて低い。この解毒経路は、自然界の生物においてはヒ素だけでなく、水銀にも適応されていたのであった。その結果、アマゾンの金採掘で、水銀の環境中への放出が水俣病を惹起しつつある。

図1 金メッキのある鳳凰鏡
図2 アマゾン川支流における小規模金鉱山(赤)
Wyatt et al. Int J Env Res Pub Health 2017, 14 1582

図1 院内で採血時の神経損傷(疑いを含む)に関する患者とのトラブル経験や採血時のトラブル経験はありますか
図2 採血に関するガイドラインがあることを知っていますか
図3 自院でガイドラインを使用していますか(問4で「知っている」と答えられた方へ質問)

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