医師が選んだ医事紛争事例 93  PDF

作業療法士の判断ミスで患者転倒

(80歳代後半女性)
〈事故の概要と経過〉
 当該患者は要介護度Ⅳ。変形性脊椎症・慢性関節リウマチ・歩行障害の既往症があり、右片麻痺(推定筋力3)でベッド上での生活であった。2カ月前から訪問リハビリを開始して、すでに当該作業療法士が4回リハビリを施行していた経緯がある。5回目のリハビリは、作業療法士が患者自宅において両手で把持して体幹下肢を保持する四輪車付き歩行補助具であるシルバーカーを用いての歩行訓練だった。この訓練中に、トイレのドアを開けようとして患者から離れ、トイレのドアを開けていた時に患者が右側から尻もちをついて転倒していた。その後、別のA医療機関に入院。検査の結果、右大腿骨骨折が判明し、人工骨頭置換術を施行したが、歩行・起立が事故前以上に困難な状態となった。患者はいったん退院。デイケアを週に4回施行したが(事故前は週に2回)、リハビリ目的でA医療機関に再入院となった。
 患者側は、介護負担の増加による介護費用等の請求を行った。
 医療機関側としては、当該作業療法士が計5回のリハビリ時に一度も立位保持の確認をしなかったのは注意義務違反であり、事故当日は、ベッド横にポータブルトイレが設置しており、患者が歩行でトイレまで行くのを拒否したにもかかわらず、作業療法士の判断でトイレまで訓練のために歩行させて、かつ患者から目を離したのは不注意であったとして過誤を認めた。
 紛争発生から解決まで約4カ月間要した。
〈問題点〉
 作業療法士の過失は認められよう。ただし、レントゲンフィルムを確認すると高度の骨粗鬆症が認められることから、患者の身体的要因も考慮すべきである。具体的には患者の事故前の状況は、すでにADL上でも後遺障害第5級2号「神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、特に軽易な労務以外の労務に服することができないもの」から7級4号「神経系統の機能又は精神に障害を残し、軽易な労務以外の労務に服することができないもの」の範囲が認められる。よって、患者の現在の後遺障害は事故と因果関係がなく、医療機関の責任ではないことを明確にする必要があった。
〈結果〉
 医療機関側は過誤を認めて、賠償金を支払い示談した。
 注:後遺障害等級は事故当時のもの

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