政策解説 厚労省 2036年の必要医師数と不足・過剰医師数を提示 診療科ごとの将来必要な医師数の見通しも示す  PDF

京都府の将来医師過剰は最大4006人―ついに〈必要医師数〉が登場

 2036年の京都府における必要医師数は丹後253人、中丹483人、南丹332人、京都・乙訓4375人、山城北1105人、山城南265人で合計6807人。これに対し、上位 i ) 供給推計で4006人、下位 ii ) 供給推計で1291人の医師が過剰となる―。これが2月18日の厚労省の医療従事者の需給に関する検討会・医師需給分科会で示された必要医師数と医師過剰の推計データである(表)。医師偏在指標による二次医療圏ランキングでは、京都・乙訓医療圏は医師多数区域、医師少数区域が丹後医療圏、他の医療圏はそのどちらでもない医療圏とされている。

表 将来時点における必要医師数等
2036年
必要医師数 供給推計 供給推計-必要医師数
(上位) (下位) (供給上位) (供給下位)
不足医師数 過剰医師数
京都府 6,807 10,813 8,098 4,006 1,291
丹後 253 223 167 -30 -86
中丹 483 559 419 76 -65
南丹 332 310 232 -23 -100
京都・乙訓 4,375 8,502 6,367 4,126 1,991
山城北 1,105 1,017 762 -89 -344
山城南 265 203 152 -61 -112
(厚労省資料から協会作成)

 国が必要医師数をこのような形で示したのは恐らく戦後史上初である。
 厚労省は必要医師数を「将来時点(2036年時点)において」、国が「医療圏ごとに、医師偏在指標が全国値と等しい値になる医師数」と定義している。
 すなわち、医師偏在指標の算出方法によってはじき出される〈標準的な受療率に対する標準的な医師数〉であり、都道府県が今後、医療計画上に記載する医師確保計画を通じ確保するべき人数となる。

将来過剰となる専門科の医師数まで

 一方で厚労省は診療科偏在是正にも乗り出している。
 2019年3月22日の医師需給分科会に示された「第4次中間とりまとめ(案)」には、「法改正事項ではないが、医療ニーズを踏まえた診療科ごとに必要な医師数の明確化については、診療科偏在の観点からも早急な検討が求められる」とある。
 すでに、新専門医制度上の18領域についての「診療科ごとの将来必要な医師数の見通し(たたき台)」が2月18日の需給分科会で、各診療科の都道府県別必要医師数も27日会合において示されていた。
 そこでは2036年の必要医師数について、内科は12万7167人で2016年医師数に対し、1万4189人不足する一方で、精神科の1688人、皮膚科の1414人、耳鼻咽喉科の1229人等が過剰になると推計されている(図1)。
 この推計について厚労省資料はDPCデータを用いて「診療科ごとの医師の需要を決定する代表的な疾病・診療行為を抽出し、診療科と疾病・診療行為の対応表を作成」し、そこへ人口動態や疾病構造を考慮した医師の需要の変化を推計する等して算出したものと説明している iii ) 。なお、あくまで事務局による機械的な計算(暫定版)と断っている。
 都道府県ごとの2036年の診療科別必要医師数では、京都府は各診療科が軒並み「過剰」と推計されている。全体としては不足と推計される内科ですら498人過剰になるとされ、臨床検査・脳神経外科以外はすべて過剰とされている。

検証に必要なデータは
すべて公表されているのか

 京都府では救急科専門医すら2036年に18人過剰とされる。しかし一方で、外来医師少数区域での新規開業の際に担うよう「合意」を求められる地域の不足する医療機能に〈初期救急〉が例示されていることから考えれば、今推計において施された〈疾病構造を考慮した医師の需要の変化〉に、例えば高齢者の救急のある程度を開業医に担わせる意図が反映されているのかもしれない。
 だがあくまで「そうかもしれない」としかいえない。
 なぜなら、前段の必要な医師総数も、診療科別の医師数も、推計方法は説明されているものの、具体的にどのような計算の過程を経て導き出されたのかを説明(あるいは証明)する資料が、少なくともインターネット上の分科会資料として公開されていないからである。
 データを使って主権者たる国民が必要とする医療を予測し、主権者たる国民の一人である医師の医業の在り方を左右する数字を導き出す。その行為の重みを理解しているのだろうか。理解しているならば、計算に使ったデータ、報告書、作成した対応表等はすべて簡便に閲覧できるようにすべきである。そうでなければ厚労省の推計が正しいかどうか、主権者の誰も検証できないではないか。

必要医師数を示した厚労省の意図とは

 なぜ、厚生労働省は必要医師数を示したのだろうか。
 今回、医師偏在是正にかかわって厚労省が使用してきたのは〈目標〉医師数という言葉であり、これには法的な根拠が持たされている。これは都道府県による医師確保計画の上で確保すべき医師数というほどの意味を持つ言葉であろう。だが〈必要〉医師数は違う。〈必要〉の対義語は〈不要〉である。不要な医師なら開業も就業も望まれないし、そもそも公費を投入して養成されなくともよいということになる。
 厚生労働省は、〈将来時点の医師偏在指標〉を検討した第23回需給分科会(2018年10月24日)において、必要医師数という考えを提出した。同省の説明は、将来時点の医師偏在指標は都道府県から大学医学部に対する地域枠・地元出身者枠の要請に用いると述べており、同指標から割り出す必要医師数もその文脈で説明されるのだろう。
 しかし今回の必要医師数は日本の医療提供体制政策にとって、より大きな影響をもたらしかねない。
 日本専門医機構の寺本民生理事長は3月18日の定例記者会見で医師需給分科会の必要医師数推計が出されたのを受け、医師偏在を防ぐための専攻医シーリングにかかわって「都道府県ではなく、診療科別でも専攻医のシーリングを設定することが有り得る」と述べた。
 9割の医師が取得する専門医制度の都道府県別・診療科別定員とは、事実上、都道府県別・診療科別の医師定数になり得る。
 何年か後、自由開業制のもとで育ってきた医師の最後の1人が引退したとき、後に残るのは、厚労省の定めた都道府県別・診療科別の医師定数と、その枠内での医師養成システムとしての新専門医制度ではないか。医師数にとどまらず、国家政策が必要とする医師像やその医療の内容を実現すべく、医師を自在にコントロールできる仕組みがその日からスタートするであろう。

i) 厚労省は上位実績ベースについて、「過去の各都道府県の増減の実績に基づいて、一番いい実績が2036年に向けてずっと続いていった場合」と説明している(第27回医師需給分科会議事録)
ii ) 厚労省は下位実績ベースについて、「これは実績ということで、増減を最小に見積もっ ても達成できるような医師数が下位実績ベースの示すところ」と説明している(同上)。
iii) ※〈見通し〉の手法について、厚労省資料は、診療科ごとの医師の需要を決定する代表的な疾病・診療行為を抽出し、診療科と疾病・診療行為の対応表を作成、現状の医療の姿を前提とした人口動態・疾病構造変化を考慮した診療科ごとの医師の需要の変化を推計し、現時点で利用可能なデータを用いて、必要な補正を行った将来の診療科ごとの医師の需要を推計と説明している。医師数は(仕事量)とされ、2016年医師数も実際のものではなく、平成28年医師届出票のデータに性年齢階級別の調整を施したものである。18基本領域と他専門科の対応関係は以下のとおりである。内科(内科、呼吸器内科、循環器内科、消化器内科(胃腸内科)、腎臓内科、神経内科、糖尿病内科(代謝内科)、血液内科、アレルギー科、リウマチ科、感染症内科、心療内科)。外科(外科、呼吸器外科、心臓血管外科、乳腺外科、気管食道外科、消化器外科(胃腸外科)、肛門外科、小児外科)。産婦人科(産婦人科、産科、婦人科)。形成外科(形成外科、美容外科)。

図 2 診療科と疾病等の対応表について(事務局整理)
○診療科と疾病等の対応表については、急性期領域における実際の診療データを用いて、専門医制度における基本診療領域と疾病等の対応表を作成した。

(イメージ)
A診療科 B診療科 C診療科・・・・・
・A診療科(50,000人)
・B診療科(30,000人)
・C診療科(10,000人)


・実際の診療データをもとに、各疾患において、各診療科が診療を行う患者数(シェア)算出

疾患A 疾患B 疾患C・・・・・
・疾患A(5%)
・疾患B(4%)
・疾患C(4%)
・疾患D(3%)


・各診療科において診療を行う疾患のシェアを算出し、重みづけされた診療科と疾病の対応表を作成

各疾病と各診療領域との重み付けされた対応表を作成

※厚生労働科学研究「保健医療介護現場の課題に即したビッグデータ解析を実践するための臨床疫学・統計・医療情報技術を磨く高度人材育成プログラムの開発と検証に関する研究」(研究代表者 東京大学 康永秀生)の研究結果(DPCデータから求めた69診療科×傷病分類(ICD-10)別の患者数)を用いて、厚生労働科学研究「ニーズに基づく専門医の養成に係る研究」(研究代表者 自治医科大学 小池創一)において、基本診療領域×傷病中分類(患者調査)別の患者数を算出した。

図1 診療科ごとの将来必要な医師数の見通し(たたき台)※厚労省が機械的に計算したたたき台

2016年 2024年 2030年 2036年 必要養成数に係る推計

2016年医師数(仕事量)
必要医師数(勤務時間調整後)
2016年の必要医師数と2016年医師数の差
必要医師数(勤務時間補正後)
2024年の必要医師数と2016年医師数の差
必要医師数(勤務時間補正後)
2030年の必要医師数と2016年医師数の差
必要医師数(勤務時間補正後)
2036年の必要医師数と2016年医師数の差
2016年の医師数を維持するための年間養成数
2024年の必要医師数を達成するための年間養成数
2030年の必要医師数を達成するための年間養成数
2036年の必要医師数を達成するための年間養成数

内科 112,978 122,253 9,275 127,446 14,468 129,204 16,226 127,167 14,189 2,289 3,910 3,362 2,965
小児科 16,587 18,620 2,033 17,813 1,227 17,212 625 16,374 -213 394 538 438 383
皮膚科 8,685 8,376 -309 7,999 -686 7,695 -990 7,270 -1,414 193 115 127 124
精神科 15,691 15,437 -254 14,919 -772 14,598 -1,093 14,003 -1,688 293 208 222 214
外科 29,085 34,741 5,656 34,916 5,831 34,605 5,520 33,448 4,363 907 1,587 1,301 1,139
整形外科 22,029 23,182 1,153 24,374 2,345 24,680 2,650 24,022 1,993 499 764 677 596
産婦人科 12,632 14,811 2,179 13,624 992 12,938 305 12,165 -467 284 394 304 261
眼科 12,724 12,054 -670 12,336 -388 12,293 -432 11,830 -895 271 227 242 228
耳鼻咽喉科 9,175 8,967 -208 8,621 -554 8,345 -830 7,946 -1,229 219 156 163 158
泌尿器科 7,426 8,320 894 8,599 1,173 8,653 1,228 8,429 1,003 199 334 285 251
脳神経外科 7,713 9,021 1,309 9,789 2,077 10,170 2,457 10,235 2,523 189 423 355 314
放射線科 6,931 7,061 130 7,147 215 7,126 195 6,918 -13 154 177 167 153
麻酔科 9,496 10,076 579 10,126 630 10,036 540 9,701 204 232 305 270 243
病理診断科 1,887 2,178 291 2,189 302 2,170 283 2,097 210 48 81 67 58
臨床検査 567 632 65 639 72 638 70 619 52 21 30 27 24
救急科 3,656 4,250 594 4,302 645 4,289 633 4,164 508 93 172 140 121
形成外科 3,321 3,431 110 3,448 127 3,417 97 3,303 -18 95 109 102 94
リハビリテーション科 2,399 2,489 90 2,519 120 2,512 112 2,439 39 51 64 59 53

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