主張 地域社会の介護力 高めることが肝要  PDF

 高齢者が初診で来院されることがある。地元の方だけでなく、移住された方もいる。大半は家族に呼び寄せられてだが、故郷に戻られた方もいる。中には縁故者なしの移住もある。家族との同居・近居もあれば、高齢者向け住宅に入居の方もいる。実家の管理のための方もいる。
 今、引っ越しシーズンである。故郷・親元・住み慣れた場所からの転居は、就学・就職する若者だ。不安はあるが、希望を抱いての転居だろう。高齢者にも希望を抱いた移住の方はおられる。しかし初診目的の多くは、継続加療や、介護保険の申請である。不安を伴う転居であろう。生活環境の変化は心身の負担になる。希望を抱いた転居ならまだしも、不安を伴う転居は体調悪化にもつながる。
 なぜ住み慣れた場所に住めないのか。家族が近隣に不在だったり、地域の見守りがなくなったためだろう。介護保険で高齢者も独居で生活することは可能になった。しかし介護職は不足している。特養入所者3人に1人、デイサービス利用者15人に1人は介護職が必要である。在宅の場合、さらに人手が必要になる。少子高齢化で労働人口が減少すれば介護難民や存在を忘れられた高齢者が増える。国は介護職に外国人労働者を受け入れることを決めた。しかし出身国との経済格差はいずれなくなり外国人労働者も来なくなる。
 家族や地域社会の介護力を高めることが必要である。
 今や住宅地は個人シェルターの集合体である。日常生活・社会活動の場所ではなくなった。
 本来、道は車ではなく人が歩き、佇み、遊ぶ場所である。街に商店・事務所・作業所・農地があれば人の出入りがある。子どもが遊べば親が見守る。高齢者も居場所があり、見守ってもらえる。地域の仕事は地域のシルバー人材に依頼すればよい。高齢者の生きがいや収入にもなる。技能・体力・時間のある高齢者はたくさんいる。地域住民の力を引き出すことが重要だ。住民に稼ぎのためではなく、社会のために仕事をする機会を提供することが肝心だ。
 地域が活性化すれば、住民に愛着が生まれ、余所者も関心を持つ。Uターン、Jターン、Iターンし、地域は再生される。消滅危惧自治体も復活する。このままだと住宅地はゴーストタウンとなる。
 最近孤独死がニュースにならなくなった。

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