腰部硬膜外ブロックで感覚麻痺
(50歳代後半男性)
〈事故の概要と経過〉
当該患者は腰部脊柱管狭窄症・腰椎椎間板ヘルニア(L3―4、L4―5)のため、外来整形で診察を受けており、患者の腰部硬膜外ブロック希望に従い施行した。注入後に足が動かせず、感覚麻痺が認められたために点滴を指示した。その後、呼吸困難となりICUでの入院となった。意識は消失することなく、改善傾向が認められたので翌日退院となった。医師はブロックに対する副作用、合併症の説明は一切していなかったので、患者側に若干の見舞金を支払った経緯があった。
患者側の主張は以下の通り。①後遺症が発症した場合の賠償②下肢麻痺により尿便が垂れ流しになり、受け取った見舞金の倍額する汚れたスーツを弁償してほしい③精神的苦痛に対して誠意を求める。
医療機関は、安全管理委員会を開催。その結果、事故原因は合併症であり、脊髄腔(硬膜内クモ膜外)への薬物が漏出したと推測するとともに、手技上の問題があった可能性も検討して、以下の点について見解をまとめた結果、一部医療過誤を認めた。
①硬膜外ブロックの適応はあった②使用薬物(リノロサールR注射液4㎎、フリードカインR注1%10
ml、生食注20ml)に問題はない③侵襲を伴う処置は外来診察で施行すべきではなかったかもしれない④合併症や副作用の説明を全くしていないのは説明義務違反の可能性がある。
なお、今後の予防対策として、以下の点を挙げた。
①外来での侵襲を伴う手術や処置については、手術室で体制を十分に整えてから施行する②腰部硬膜外ブロックに関しても説明書・同意書を作成して、患者に十分な説明を行い、インフォームド・コンセントを得る努力をする。
紛争発生から解決まで約3カ月間要した。
〈問題点〉
院内調査では、針が硬膜内クモ膜外に刺入した可能性が指摘されたが、血圧低下があったことから、クモ膜下(髄液腔)に刺入していた可能性もある。いずれにせよ、陰圧確認を怠った可能性が高く、手技上に問題があると考えられた。ただし、医療機関側が主張する説明義務違反についてまでは認める必要はないであろう。以上のことから、絶対的な過誤とは言明できないが、過失を認めることが妥当と判断された。
〈結果〉
医療機関側が過失を認めて、賠償金を支払い示談した。ただし、賠償金額は当初、患者側が要求した額の3分の1であった。