PCI中に脳の空気塞栓症発生 器械操作法の未習熟から…
(70歳代後半男性)
〈事故の概要と経過〉
当該患者は腰部脊柱管狭窄症を患い、経皮的冠動脈インターベンション(PCI)を施行中に脳に空気が注入され意識障害を併発した。
右冠動脈の高度狭窄に対しステント留置術を施行。良好に拡張し、最終確認のため2方向から造影を行うことにした。1方向目の造影終了後、造影剤自動注入器の剤量を示す目盛りが0mlを指していたので、臨床工学技師が回路内の造影剤を回収しようとしたが、何度試みてもできなかった。操作方法としては、注入ボタンを押して空気の混入している造影剤をインジェクターからチューブへ移動させるものであった。造影剤がチューブへ到達するまでに空気センサーがあるが、注入ボタンを押した際にはそのセンサーがオフになることを技師は知らなかった。
そこで注入器を使用せず、医師自らが直接手押しで造影するため、技師に作業を中止させようとしたところ、カテーテルのルート内に空気を発見。ただちに医師は看護師に心室細動の発生を予告し、徐細動器を準備するように指示したが、患者は間もなく意識を消失した。
そこで、人工呼吸を開始するとともに、麻酔科医師が気管内挿管を行った。その後、家族への状況説明と並行して、頭部CT撮影を行い、右大脳半球の空気塞栓症と診断した。患者はCCUで人工呼吸管理下、脳保護のための治療を開始した。その後、植物状態となり肺炎のため死亡した。
患者側は患者の死亡後に訴訟を申し立てた。
医療機関は、PCI中に脳の空気塞栓症を発生させたことは事実であり、技師の注入器の操作知識が乏しく、空気逃がしが不十分であったことから医療過誤を認め、院長を始め主治医が謝罪をした。
紛争発生から解決まで約4年2カ月間要した。
〈問題点〉
医療機関側は、院内の事故調査委員会を開催。根本的な問題として今回の事故原因は技師が空気センサーのオン・オフのメカニズムを把握していなかったことによる誤操作によるものであることは明白であった。したがって完全な医療過誤と認定された。技師は実際に行ったことのない操作はしない、あるいは医師の指導の下、慎重に実施することが必要であろう。
〈結果〉
裁判所から和解が勧告され、和解した。