私の趣味 映画「手紙は憶えている」 山本 昭郎(下京西部)  PDF

 私には誇れるような立派な趣味はありません。休日に、撮りためたNHK・BSやWOWOWの古い映画のビデオを観ることです。これでストレスを解消しています。高校時代には、地方市の三つある映画館に連日のように通い続け、日本映画と洋画を片っ端から観たものでした。なぜか西部劇はランドルフ・スコットが好きで、ジョン・ウェインやゲーリー・クーパーなどのメジャー俳優は論外でした。テレビでは「拳銃無宿」の賞金稼ぎジョッシュ・ランダルに扮するスティーブ・マックイーンに熱を上げました。そんな青春時代でしたから、いまだに映画から離れられません。暗い映画館では孤独で映画の中に没入できましたが、明るいところで観る小さな画面のビデオでも、音楽を背景に映像の中に自己を投影し、登場する人物に感情移入をしながら、観終わった後にあふれる感動や爽快感、衝撃、喜び、悲しみ、好悪などに浸るしばしの時間、後期高齢者に入った今でもそんな世界が好きなのです。
 近頃観た録画映画「手紙は憶えている」は強烈で、衝撃的でした。2015年カナダ・ドイツの合作、監督はアトム・エゴヤン。ナチスに家族を奪われた男の復讐劇です。アメリカの老人ホームに居住するユダヤ人で90歳の認知症の主人公ゼブ・グッドマン(クリストファー・ブラマー)が、同居友人のマックス(マーティン・ランドー)から手紙を受け取り、ホームを無断で抜け出す。アウシュヴィッツで家族を殺したドイツ人兵士オットー・バリッシュ、今はルディ・コランダーを探しだす復讐の旅に出るのです。クリーブランドを皮切りに、4人のルディ・コランダーを求めてカナダにも行きます。次々と訪ねる先では、人違いであったり亡くなっていたり、波瀾万丈のシーンが登場します。
 最後にたどり着いた4人目のルディが、ゼブに向かって「オットー・バリッシュは君だ、俺と君はアウシュヴィッツで管理者だった。多くの人間を殺したから、逃げるには捕虜になりすますしかない。2人でお互いに腕に囚人番号を刻んだ」と言う。ゼブはルディを撃ち殺し、自分のこめかみを撃つ。事件が報道される老人ホームで、マックスは「彼ら2人が私の大切な家族を殺したのだ」とつぶやく。最後のどんでん返し。認知症になったゼブにもう一人の収容所の管理者を殺させ、ゼブを自殺させたマックス、人間の「業」の深さの描写に脱帽です。

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