ここのところ、議論をやりつくしたかのように少し下火になってきた新専門医制度について検討したい。
結局のところ、自由開業制度の見直しや患者のフリーアクセスの制限が議論の俎上に載ったり、大病院や都市に医師を集中させるような医師偏在を巻き起こしたり、ほころびが一杯見られる慌ただしい改革。専門医制度が官僚に支配された専門医機構によって、いわば強引にスタートされた感覚である。
2018年7月の医療法・医師法改定によって、国の政策が病床数管理・抑制から開業医を含めた医師数抑制へ踏み出そうとしている。さらに、医師偏在是正のために導入された「医師多数区域」での都道府県による確保すべき医師数の設定は大都市が焦点となる。
実は、4月から始まった新専門医制度では、専攻医の採用・登録数8349人のうち、東京に2割強、神奈川・大阪などの大都市に46%が集中した。高知・宮崎・福井・岩手・鳥取・群馬・山梨などは惨憺たる数字である。特に産婦人科・外科などは県にやっと1人などと「医師偏在の是正」にはほど遠い実態となっている。
新専門医制度の目玉とされていた総合診療領域の創設。当初は、全医師の約3~4割が総合診療専門医としての機能を担わなければ、日本の医療は持たないともいわれていた。初年度の今年に総合診療専門医のプログラムを準備し手を挙げた機関病院は全国で360施設にも及んだ。にもかかわらず採用された専攻医は全体のわずか2・2%である184人、9県では応募がゼロという寂しい滑り出しである。
将来の日本の医療を支える存在と位置付けるには心もとないと言わざるを得ない。NHKの人気医療情報番組「ドクターG」に出てくるようなクリエイティブな格好良さを持った総合診療専門医は、当初学生の間で非常に人気があったのに、ふたを開けてみればこのていたらく。そもそも、モデルプログラムも確定しておらず、サブスペシャルティ領域との関係も判然としない状態では、若い学生にとっては戸惑うこと必然。自分の将来を見据えなければならない若い人にとって、制度の内容がこのように紛らわしい状態でよいのであろうか。
何らかの専門医でないといけない時代。専門医の更新も問題になってくる。従来の専門医は学術集会への参加実績だけで更新できるものが多かった。しかし新制度では、経験症例数などの活動実績(具体的には診療実績の証明、専門医共通機構の講習受講の証明、診療領域別講習受講の証明、学術実績・診療以外の活動実績の4項目)の報告が要件とされた。例えば、中小規模の病院の勤務医にとって必要症例数を経験できない、また地方の医師にとって講習受講のノルマを果たすのは不可能に近いという声もある。
新専門医制度は、新専門医機構が専門医の認定と養成プログラムの評価・認定を統一的に扱う仕組みだ。うがった見方かとも思うが、この新専門医機構に、官僚にとって都合のよいシステムが入り込んでいるのではないか。
多くの矛盾点、疑問にさらされながら、この制度はスタートしてしまっている。早い時期に高い思想と大きな包容力で改善されることを願っている。
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