私のすすめるナガラ掛け持ち墓詣で  PDF

来し方行く末を思う
宇田 憲司(宇治久世)

 筆者の菩提寺は、「元気ナガラに遺影の撮影!」(本紙3017号)で紹介の浄土宗は無量寿山西方寺で、父母が他界して、仏壇・墓の祭祀義務を相続し、寺からは総代に任命された。しかし、曹洞宗の檀信徒でもある。実は、故母親の実母の代で途絶えた松尾家の墓が滋賀県彦根市の萬年山長松院という曹洞宗の寺に残っている。また、故母親の実弟の代で途絶えた福田家の墓が大津市の浄土宗は別所山等正寺にある。後者は、生前両親が永代供養をして、筆者も一度弟の車であいさつに行き墓参した。その後も法事の案内があったが、永代供養も済み放置していた。また一度訪ねてみようと思うこともあったが、まだできていない。
 問題は松尾家の墓で、両親も体力減退・病状進行のため、彦根市まで行く気力もなく他界してしまい、墓地使用料は護持会費の請求書兼法事の案内書が筆者に転送されてきた。しばらく放置していたが、何故か久し振りに興聖寺を訪れた2014年5月11日、坐禅会が次週と分かり午後の時間帯に行くことにした。着くと、最早前住職は不在で、改めて若い住職の新任を待ちつつ僧堂・住居の改築工事がなされており、近隣の人に名刺を預け帰宅した。墓地は、茨負う草葉や灌木が棄嫌に生い、円滑に歩を進め難く、墓標は見つからなかった。
 その後、同年8月下旬に新任住職から電話があり、墓が見つかりE-mailでその図が通信され、10月、12月と永代供養の相談に行った。しかし、永代供養墓もまだなく、墓地使用・護持会費年1万円とのことで、お互い生きている間は檀家・菩提寺として、先祖の縁で付き合えるのがよかろうと会費を納めることになった。丁度、学会発表や講演会もあり、墓参ながらのついでに和尚を発表練習の相手にと聴いてもらい、当時は1~2カ月に1回、尋ねるごとに2~3時間も居座っており、逆さ箒が立っていたのではないかといぶかったが、よく聴講の上お褒めの言葉までいただき大いに助かった。もっとも、正式な法事には時節が合わず、松尾家先祖代々諸精霊の供養には15年秋の彼岸会と、寺との交流には17年5月の晋山式との2回だけで、他は会費を送金するだけ、道元禅師の「正法眼蔵」などはちょっと開きみる程度の、孫が永平寺町に在住でたまに一緒に大本山に参拝する程度の、曹洞宗の檀信徒とは名ばかりである(図)。しかし、血は母に、骨は父・祖から受けるに限らずとも、ここ墓石の前に立って、先に逝った血族のことを想うと、今も自己に注がれ続ける常なき時の流れと自己を経て継受する血縁の不可思議に心打たれる思いがする。
 ところで、葬儀や檀家制度に関する国民の考え方も多様化し、寺院を取り巻く環境も厳しさが増す中、住職には、本音は自分の子を無理に継がせたくないとのことであった。人口減少や過疎化による檀信徒の減少などもあり、例えば、我が宇田家も筆者の子どもは女3人で後継ぎに困るなど、それに伴い困窮する寺院も増加していると聴く。浄土真宗本願寺派(西)が15年に実施したアンケート調査では、回答した約7000カ寺の内、年収50万円未満10・4%、それ以上100万円未満11・3%、一方で、2000万円以上が5・6%と格差が広がり、住職の約27%は職の掛け持ちで、大半は、後者の収入の方が多いとのことである(毎日新聞17年4月18日)。

図:御朱印・右は菩提寺にて奉納、左は曹洞宗大本山永平寺にて

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