政策解説 2018年度医療大転換が発動 地域医療構想の達成と医師・医業への規制  PDF

Ⅱ 医療法及び医師法の一部を改正する法律案―ついに立ち上がる開業規制

 地域医療構想の達成に向けた政策と並行、あるいは重なりあいながら進められているのが医療法・医師法の見直しである。国は「医療法及び医師法の一部を改正する法律案」(閣法)を3月13日に国会提出した。法案には大きく次の五つの改正内容が含まれる。法改正が成立すれば大半の項目は2019年4月1日に施行となる。
 ①医師少数区域で勤務した医師を評価する制度の創設 医療法
 ②都道府県における医師確保対策の実施体制の強化 医療法
 ③医師養成課程を通じた医師確保対策の充実 医師法・医療法
 ④地域の外来医療機能の偏在・不足等への対応 医療法
 ⑤その他―地域医療構想達成のための知事権限の追加他 医療法等
 以下、各項目について内容を紹介し、若干の検討を加える。なお、解説にあたっては法案提出前の1月、厚生労働省が社会保障審議会・医療部会に提出した法案解説資料を補助的に引用する。

〈医師少数区域〉等で勤務した医師を評価する

 〈医師少数区域〉等での一定の勤務経験を通じ、地域医療への知見を有する医師を厚生労働大臣が認定する仕組みを導入する※1。厚労大臣は〈認定医〉に対し、「認定証明書」を交付し、〈認定医〉であることを広告可能事項に加える。さらに「医師の確保を特に図るべき区域」で「医療の確保のために必要な支援を行う病院」(地域医療支援病院等)の管理者は例外を除き、当該認定医を管理者とせねばならないとした。

都道府県による医師確保計画の導入

 国は現在、地域ごとの医師数比較に用いられている「人口10万人対医師数」は医師の地域偏在・診療科偏在を統一的に図る「ものさし」になっていないとし、医療需要、将来の人口・人口構成の変化、医師偏在の単位(区域、診療科、入院/外来)、患者の流出入、医師の性別・年齢分布、へき地・離島等の地理的条件を踏まえ、地域ごと、診療科ごと、入院外来ごとの医師の多寡を統一的・客観的に把握できる、医師偏在の度合いを示す指標を導入する(以下、医師偏在指標)。都道府県は国の準備した全国一律の新たな医師偏在指標に基づき、提供される医療の種別ごとに「医師の数が少ないと認められる区域」(以下、医師少数区域と呼称)と「医師の数が多いと認められる区域」(同、医師多数区域)を二次医療圏別に定めることができ、それに基づく各区域の確保すべき医師の数を定め、その確保を目指す「医師確保計画」を医療計画に盛り込む。
 あわせて地域医療対策協議会の機能を強化し、都道府県・大学・医師会・主要医療機関等が合意の上、医師派遣方針・研修医の定員等を協議する。協議会の協議に基づき、都道府県は「地域医療支援事務」を行う。地域医療支援事務の内容に、①キャリア形成プログラムや、②医師少数区域への医師の派遣等の事務を追加する。

医師養成過程を通じた医師確保対策

 医師養成過程を通じ、知事権限が強化される。知事が大学に対し、地域医療対策協議会を経たうえで、地域枠または地元出身者枠の創設・増加を要請できるようにすること。同じく臨床研修病院を指定できるようにすること。さらに知事が(厚生労働大臣が定める都道府県ごとの研修医の定員の範囲内で)臨床研修病院ごとの研修医の定員を定めることにする。一般社団法人日本専門医機構が運営する「新専門医制度」についても、厚生労働大臣が機構へ必要な措置の実施を要請。機構はあらかじめ都道府県知事の意見を聞いた厚生労働大臣の意見を聴かなければならないこととされた。以上のような知事の役割は「医師確保方針」に沿って発揮されることになる。

外来医療機能の偏在・不足問題への対応

 外来医療については、「協議の場」設置が提案された。知事が二次医療圏その他知事が適当と認める区域(対象区域)ごとに、診療に関する学識経験者の団体その他の医療関係者、医療保険者その他の関係者との協議の場を設ける。「場」について具体的には地域医療構想調整会議が想定され、国の示す医師偏在指標に基づく医師数を踏まえた提供体制に関する事項、病院および診療所の機能分化・連携、複数の医師が連携して行う診療、医療提供施設の建物、設備、器械および器具の効率的な活用に関する事項を協議する。

法案は国が病床だけでなく開業への「規制」へ着手したことを示している

 前号より、通知「地域医療構想の進め方について」と「医療法及び医師法の一部を改正する法律案」をあわせて紹介してきた。
 地域医療構想の主な対象は「病床」であり、医療法・医師法改正法案が対象とするのは「医師」そのものである。病床がなければ入院医療は提供されず、医師がいなくては医療そのものが提供されない。そのいずれにおいても、医療提供コントロールの新たな仕掛けが「都道府県」を中心に構築されようとしているのである。
 大きく三つの問題が指摘できる。
 一つは、入院医療機関の医業にかかる方針を地域医療構想よりも下位に位置付けること。これについては前号で詳しく論及した。
 二つめは、医療法・医師法改正が事実上の開業規制をもたらす恐れである。2018年1月の社会保障審議会・医療部会で改正法案の説明資料の時点から、厚労省は「無床診療所の開業規制を行う場合の課題」を掲示している(図1)。今回の法改正が開業規制につながる危惧は、前述した「医師少数区域」と「医師多数区域」を定め、各区域で確保すべき医師数を医療計画に定めることにある。国の「医師偏在指標」に照らして「医師多数区域」を設定し、確保すべき医師の数を定めれば、それは国の考える「適切」な医師数に収れんさせていく方向に進まざるを得ないであろう。それを医療対策協議会や地域医療構想調整会議という当事者参加の会合で合意の上進めれば、国が課題に掲げる憲法上の自由との衝突も回避できるということではないか。
 しかしそこで突き当たるのが三つめにして、もっとも根本的な問題である。医業経営方針への介入(制限か)や事実上の開業規制にまで着手し、国が目指すのは一体何であるか。
 経済財政諮問会議や、経済・財政一体改革推進委員会が執拗に求めているのは医療費の地域差縮減である。経済財政諮問会議では早い段階から、医療費の地域差をもたらすのは医師数・病床数であると厚生労働大臣に語らせてきた(図2)。
 2018年度からの新たな都道府県医療計画と同時に策定された第3期医療費適正化計画は、6年後の医療費を見込むに際し、地域医療構想に定めた提供体制の実現による入院医療費の効率化効果や入院外医療費については後発医薬品普及、特定健診・保健指導の実施率、外来医療費の一人当たり医療費の地域差縮減の取組効果を反映する。国保都道府県化に伴い、新たに「保険者努力支援制度」が創設され、医療費の地域差縮減に向けて目標を掲げて努力する都道府県・保険者には重点的に公費を配分する仕組みもスタートしている。
 こうした動きを背景にすれば、今回の通知や法改正は、医師偏在問題への対応策の形をとった、比較的医師の多い地域に対する開業規制の仕組みが、公的に設置されようとしていると見るべきであろう。

※1 当該認定医について厚生労働省は2018年1月24日段階では「認定社会貢献医(仮称)」と呼称し、経済的インセンティブの対象であると説明している。

図1
出典:「医療法及び医師法の改正法案について」(第59回社会保障審議会医療部会資料・2018年1月24日)

図2
2016年10月21日 経済財政諮問会議 厚生労働大臣提出資料

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