患者の自己決定権と医師の専門性阻害の生保改革  PDF

 国は、生活困窮者等の自立を促進するための生活困窮者自立支援法等の一部を改正する法律案を2月9日、国会に提出した。18年10月1日の施行を目指している。また、同時に生活保護基準の見直しも行う予定。保護受給を受けていない低所得者層を自立とみなし、保護基準をこの「自立」の基準にあわせるなどとしている。協会はこの改正法律案ならびに生活保護基準見直しについて、一から考え直すよう求める談話「生活困窮者等の自立を促進するための生活困窮者自立支援法等の一部を改正する法律案ならびに生活保護費の見直しについて」を渡邉副理事長名で発表した。

談 話
2018年4月19日
京都府保険医協会 副理事長 渡邉 賢治

 2月9日に国会提出された生活困窮者等の自立を促進するための生活困窮者自立支援法等の一部を改正する法律案は、「生活困窮者の自立支援の強化」と「生活保護制度における自立支援の強化、適正化」を柱としている。

後発医薬品使用の原則化は差別かつ
医師の専門性侵害である

 「医療扶助における後発医薬品の使用原則化」は、後者の「適正化」に類する改正案である。後発医薬品の普及は、2018年度からの第3期医療費適正化計画の「都道府県医療費の推計ツール」においても推奨されており、今日における医療費支出抑制策の柱の一つである。同じく今年度からの国民健康保険制度の都道府県化に伴い創設された保険者努力支援制度においても、「後発医薬品の使用割合」は評価指標に位置付けられている。
 後発医薬品の「原則化」は、二つの意味で問題がある。
 一つは、患者の自己決定権・自己選択権の侵害である。
 生活保護受給世帯に属する人であることと、そうではない人との間に、「後発医薬品」の選択について差異を設けることは、明らかな人権の制約である。なぜ保護受給者だけが後発医薬品の服用を「原則化」されねばならないのか。私たちはそこに「国の世話になりながら高額な先発医薬品を使うなんて贅沢」というあからさまな差別意識を感ぜずにはいられない。それ以外に「原則化」を提案する理由は見当たらない。即ち、国が望むのはすべての人々に対する後発医薬品使用のスタンダード化であろうが、その先鞭として保護受給者は選ばれているものと考える。
 二つめは、医師の専門性への介入である。
 投薬とは医師が患者の疾患、容体に対し、専門的見地からその可否を判断する。それが先発医薬品であるか後発医薬品であるかも含め、判断は医師の専門性に委ねられている。
 私たちは現行法における、「可能な限り後発医薬品の使用を促すことによりその給付を行うよう努める」(第34条の3)との規定自体も深刻な差別を含んでいると考えるが、改正法案は「可能な限り」を「原則として」に置き換えようとしている。国の説明資料は「医師が医学的知見に基づいて、後発医薬品を使用することができると認めたものについては」と記述しているが、それはどのような方法で担保されるのか。地方自治体が常に扶助費を抑える努力を求められている現状にあって、その圧力が今以上に医師にも及ぶことは想像に難くない。もちろん私たちは何も後発医薬品使用すべてを否定するものではない。昨今はAGも普及し始めたことから、患者さんの一部負担金も考慮し、積極的に活用する医師も多い。しかし、それはあくまで医師が判断することである。
 患者さんの選択権・自己決定権と医師の専門性は一見相反するかのようだが、そうではない。医師が患者さんの思いに寄り添いながら、一緒に治療方針を決定し、快復を目指すのであり、そこに国による何らかの介入・強制が入り込む余地はない。

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