医師が選んだ医事紛争事例 71  PDF

カテーテル先端が断裂
止むなく和解で解決

(40歳代後半男性)
〈事故の概要と経過〉
 48歳の男性。立ち眩みがありA医療機関受診後に、当該医療機関が紹介された。当該医療機関において、アブレーション目的で入院となり、翌日にアブレーション治療を施行した。ところが、診断に用いる鉄芯の入った円形のカテーテルを肺静脈から抜去するとき、リング先端が僧帽弁腱索に絡んで抜けなくなった。回収を試みていた途中で、カテーテル先端が断裂し腱索に絡みついた状態となった。その後スネア等で回収を試みたが弁を損傷する可能性があったため中止とした。その後は集中治療室管理とし、心エコーを施行したところ後尖の逸脱から僧帽弁逆流がⅢ度と診断した。心機能の悪化と血行動態の変化、心不全兆候を認め、IABP挿入を行った。その挿入に伴ってCAG施行、血管造影で断裂部分が Aorta まで落ちてきていたためスネアで回収した。心臓エコー上僧帽弁閉鎖不全Ⅲ度の状態であり、準緊急的手術適応と判断した。手術承諾を得た翌日に僧帽弁置換術を施行。その際に僧帽弁の前尖の一部、後尖殆ど挫滅、修復不可能、後壁に裂創を認めた。
 患者側は、身体障害者になったことで賠償を求めてきた。
 医療機関側としては、カテーテルの先端部分が残存することは予見できないことであり、その回収に当たって、身体への侵襲を考慮すれば、経皮的に回収することが最良の手段と判断する。したがって医療過誤を否定した。なお、同様の事故は我が国では2例、諸外国で数例報告されていることが、メーカー報告により判明した。
 紛争発生から解決まで約4カ月間要した。
〈問題点〉
 診断・適応について過誤を指摘する点は認められない。手技については厳密に言えば当事者以外は判断がつかないが、医療機関側の話を聞く限り過失は認められなかった。患者・家族への説明のカルテ記載が不十分であるが、同意書もあり、また、今回の事故は極めて稀なケースでもあり説明義務違反も問えないと考えられた。
〈結果〉
 いったん立ち消え解決とみなされていたが、その後、患者側が訴訟を申し立てた。医療機関側は終始医療過誤がないことを主張したが、裁判所が和解を勧告してきたため、和解金を支払い終結した。なお、和解額は訴額の2分の1であった。

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