診療報酬を用いて国の政策を
強引に推し進めることは許せない
2018年2月27日 理事長 垣田 さち子
中医協は2月7日、2018年度診療報酬改定について答申した。入院医療については「地域医療構想」における病床機能の分化を強力に後押しし、外来医療については「かかりつけ医」の明確化と報酬上の差別化を図り、在宅医療・居宅系介護サービスでは「地域包括ケアシステム」の構築を進める内容である。政策誘導的な点数の新設・変更が強く目立つ改定であり、前回同時改定以降の「社会保障・税一体改革」以来の提供体制改革を推し進める診療報酬改定が総仕上げに入ったとも言える。「療養の給付」そのものである診療報酬を用いたあからさまな国の政策推進は許せない。
初診料の機能強化加算をどう考えるか?
「かかりつけ医機能を有する医療機関における評価」として、再診料の地域包括診療加算等、小児かかりつけ診療料、支援診療所・支援病院であって在医総管等を届け出ている診療所および200床未満の病院において初診料を算定した場合の加算として、機能強化加算80点が新設された。機能とはもちろん「かかりつけ医機能」のことだ。実際算定するとなると一部負担を考慮して躊躇する会員もおられると思う。現状でも再診料の地域包括診療加算等は届け出ているが算定していない会員も多い。
気になるのは昨年いったん否定された「かかりつけ医以外に受診した場合の定額負担の導入」との関係である。「経済・財政再生計画改革工程表2017改定版」では「2018度末までに更に検討し必要な措置を講ずる」と復活している。ワンコイン負担が導入されれば、機能強化加算分の負担が上がっても、かかりつけ医に受診した方が安くつくといった風潮の醸成には注意が必要だ。診療報酬や一部負担増による「かかりつけ医」の実質的な制度化は問題であり、その向こうにはフリーアクセスの制限が見え隠れしている。
オンライン診療は対面診察の補完
情報通信機器を使用した診療として、リアルタイムでのコミュニケーションが可能なオンラインシステム等の通信技術を用いた点数が新設された。基本診療料のオンライン診療料・月1回70点、医学管理等の通則のオンライン医学管理料、在医総管・施設総管の注12のオンライン在宅管理料、精神科在宅患者支援管理料の注4の精神科オンライン在宅管理料、それぞれ月1回100点である。
今回の設定は、あくまで対面診察を補完するための点数としての位置付けとなった。初診から6カ月間は毎月同一の医師による対面診察を経る必要がある。対面による診療の間隔は3カ月以内に行う必要があり、連続算定は2カ月が限度となる。対面診察とオンライン診療を組み合せた療養計画の作成も必要だ。厚労省としては慎重な対応をしたと思う。
複数の医師による訪問診療が可能に
訪問診療料がⅠとⅡに分けられ、訪問診療料Ⅰも(1)と(2)に分けられた。(1)は従来の訪問診療料、(2)は在医総管等の算定要件を満たす他医療機関からの依頼を受けて訪問診療した場合に算定する。
(2)は協会が新設を要望していた内容であるが、月1回のみ、別に厚労大臣が定める神経難病等の患者は除くが訪問診療開始月から6月に限るという算定制限が設定された。このような制限はすぐにでも撤廃して地域での医療機関連携をしっかり評価すべきである。
在医総管・施設総管については、「別に定める状態の患者」以外の患者で月2回以上訪問診療している患者と、月1回訪問診療している患者について、要介護2以上に該当する等一定の状態の患者に対して包括的支援加算150点が新設された。入院医療のように、患者の「医療必要度」基準を導入したとも言える。
支援診以外の診療所で、当該診療所単独または他医療機関と連携して24時間連絡体制・往診体制を確保している場合について、継続診療加算216点が新設された。支援診の施設基準から看取り実績を除いた形で評価したともいえる。
医療機関に併設する介護施設等の入居者を訪問した場合は訪問診療料Ⅱの144点で算定することになった。入院医療機関が病床を転換した後の介護施設等における訪問診療もこれで算定することになる。25年には団塊の世代が75歳以上になり、38年には推計170万人が亡くなる「多死社会」がピークを迎えると言われている。国は入院での看取りを減らしたいが、一方で在宅での看取りには限界がある。人生の最期を介護施設で迎える人は今後増えると考えられている。点数は再診料と外来管理加算と地域包括診療加算を足した程度の評価だが、ターミナルケア加算、看取り加算はⅠより低いもののきっちり評価している点に、国の意図が透けて見えている。
看取りに関する指針をどう考えるか
在宅患者訪問診療料の在宅ターミナルケア加算の算定要件、療養病棟入院料と地域包括ケア病棟入院料・入院医療管理料1、3の施設基準について、「人生の最終段階における医療の決定プロセスに関するガイドライン」等に則り「看取りに関する指針」を定めていることが追加された。
療養病床の在宅患者支援療養病床初期加算、地域包括ケア病棟入院料・入院医療管理料の在宅患者支援病床初期加算は、同ガイドライン等に則り「看取りに関する指針」を定めていることが算定要件とされた。
同ガイドラインについてはさまざまな意見があるが、「改革工程表2017」の中で「普及を図る」と位置付けられていることは注意しておくべきである。同ガイドラインが将来に医療や介護の制限に使われる危険性がある。
維持期リハ延長は1年限り
要介護被保険者の外来維持期リハビリは延長されたが、あくまで2019年3月末までの1年間限定とされた。一方、介護保険への移行を進めるために、リハビリ計画書を医療と介護の間で共有できる仕組みを導入し、介護保険の通所リハビリの要件緩和も行われるが、小幅な内容で医療機関にとって通所リハビリ実施のハードルは高いままだ。1年後の算定終了がそのままリハビリ打ち切りとなってしまうことを危惧する。
病床再編を後押しする新入院点数
入院点数は「急性期医療」を担う一般病棟として急性期一般入院料7段階に、「急性期医療から長期療養」を担う病棟として地域一般入院料3段階、回復期リハ病棟6区分、地域包括ケア病棟・病床4区分に、「長期療養」を担う病棟として20対1療養病棟2段階に再編された。ただし点数は、加算点数を施設基準に組み込んだ形で横滑りさせている。
新設は急性期一般入院料の2、3だが、看護職員配置7対1から類下げする場合の踊り場としての評価だ。「重症度、医療・看護必要度」基準の改定・引き上げと実績評価の導入等により、「地域医療構想」を診療報酬改定で進めることとなった。乱暴な手法であると言わざるをえない。また、実績評価が組み込まれていない病棟が、次回改定以降どのように評価されるかも不透明で、不安を残す。
保険医運動なくして改善はない
基本診療料の底上げはできなかったが、①静脈血採取料が5点引き上がり30点に、②特定疾患処方管理加算の28日以上が1点引き上げ、③妊婦に対する初・再診料の妊婦加算、産科・産婦人科特例加算、④創傷処置の100?未満が7点引き上げられ52点に、⑤鶏眼・胼胝処置の算定回数が月2回に―等、汎用点数が引き上げられた。会員の意見をもとに、協会が要望していた複数医療機関による訪問診療料の算定も、算定制限が厳しく問題があるものの、新設された。25対1未満の療養病床の経過措置も運動の成果だ。
診療報酬は国民が得られる「療養の給付」そのものであり、要求運動がなければ改善を勝ち得ることはできない。医療提供を担う現場の医師の声が正しく反映されるように、運動を続けていく。
会員におかれては、協会の新点数説明会に参加して改定内容の正確な把握に努めていただくとともに、協会・保団連が行う不合理是正要求運動への協力を強くお願い申し上げたい。
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*正式告示・通知により内容は変更される場合もある。