今回の診療報酬改定議論の中で、目玉の一つになったのが“ネット”診療の保険導入であった。先の診療報酬改定答申では、それがオンライン診療料(再診・月70点)、オンライン医学管理料(月100点)、オンライン在宅管理料(月100点)として具体化された。今回はそれなりに厳しい算定要件や算定制限があるが、風穴が開いたとの受け止めが強い。すなわち、要件や制限は容易に変更可能で、次回改定やその先には更なるオンライン診療の適用範囲拡大・要件緩和が待っているとの仲介業者の期待である。我々の診療所には連日のように業者から勧誘のパンフレットやファクスが届いている。某社は「診療報酬改定直前早割キャンペーン」と称し、初期費用80万円の無料化を謳っている。これではテレビ通販のタイムセールと同じ叩き売りだ。まともな医療者が取り合う代物ではない。
厚労省は今回オンライン診療を有効性・安全性・経済性の明確なエビデンスもないまま保険診療化した。その背景には、政府中枢の産業競争力会議等“儲かり戦略”の圧力で厚労省が電話再診の要件を緩め、その果てにオンライン診療を認めるに至った経過がある。そのため、せめてもの抵抗で、要件厳格化を図ったとも見られる。厳格化に対抗し業者側は収入確保を狙った予約料徴収(選定療養)や、自費診療(保険外診療)を医療機関にそそのかしている。また“医療相談(有料)”なら診療ではなく(“診断”がない)医師法20条に抵触しないと勧誘している。投薬はガイドラインで初回は規制されるものの以後の不適切や不正が危惧される。“医療”や“診療”“医業”とはそもそも何なのか、正当性が心底問われる事態だ。さらには混合診療拡大で我が国が世界に誇る国民皆保険制度をも壊し兼ねない危険性が潜んでいる。
こんなセールスに安易に近づいてはならない。協会はオンライン診療を全面否定するものではないが、業者や政府・マスコミに煽られるのではなく、あくまで慎重に医療としての正当性とエビデンスの積み重ねの担保の基に進められるべきと訴える。