国会では働き方改革の審議が始まっている。時間外労働の規制や「高度プロフェッショナル制度」の創設などが焦点となり、安倍内閣は成立を急いでいる。医師については、改正法の施行期日の5年後を目途に規制を適用する。「医療界の参加の下で検討の場を設け、質の高い新たな医療と医療現場の新たな働き方の実現を目指し、2年後を目途に規制の具体的な在り方、労働時間の短縮策等について検討し、結論を得る」(働き方改革実行計画2017年3月18日内閣府)方針で進めている。
厚生労働省は、「新たな医療の在り方を踏まえた医師・看護師等の働き方ビジョン検討会」を先行させ、「医師の働き方改革に関する検討会」で検討してきた。1月15日に中間的な論点整理および医師の労働時間短縮に向けた緊急的な取組の骨子を公表し、2月16日には同検討会で了承された。今後、医師の労働時間規制や短縮策の具体案を3月末までに取りまとめる。医師法の応召義務、宿直、日直の扱いなどが議論されることになっている。
病院勤務医の労働条件は過酷なまま放置されてきた。98年に関西医科大学で当時26歳の研修医が過労死した事件が起きて初めて注目された。「研修医は労働者」という判例により研修医の労働環境改善のきっかけとなることが期待された。ちょうど卒後研修必須化が議論されている時期で、保団連は医学連や民医連などと研修医の身分、経済、研修の保障を要求して運動し制度的な改善を勝ち取った。その後、新自由主義的な政策によって医療事故や医療崩壊が深刻化し、医師不足に注目が集まるようになった。しかし、政府はこれを医師の偏在にすり替え十分な対策を取ってこなかった。医師の過労死、過労自死は後を絶たないが、こうした背景を考えると氷山の一角であることは容易に想像できる。
働き方改革は一億総活躍社会を目指すアベノミクスの中心的政策である。ねらいは労働生産性の向上にある。医師の増員ではなく過重労働で対処することが基本原理として埋め込まれているといわざるを得ない。現在、全国医師ユニオンと日本医労連、地域医療を守る病院協議会、日本医師会などがそれぞれの立場から意見を表明している。協会としては、医師の労働条件の改善と質の高い地域医療の確保が実現できる方向を目指すべきではないか。注視すべきは厚労省の議論には開業医の労働という視点が欠落していることだ。地域医療や在宅医療の担い手として期待される開業医の働き方についても改善がなされるよう検討がなされるべきである。
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