失われた関係を取り戻せるか  PDF

 仁丹 ところで、患者さんとの関係でいえば、昔は往診に行くと、トランクの中に白菜を入れてくれたりしたことはよくあったね。
 吉田 私のところは卵が多かったなあ(笑)。
 廣野 私が強烈に覚えているのは、父親が鶏をもらって帰ってきたことです。学校から帰ってくると、家に鶏がぶら下がっていたのでびっくりしました(笑)。なんでやと聞くと、往診に行った先でもらってきたと。野菜をもらってくることはしょっちゅうでしたね。
 吉田 そういう意味では医師と患者の関係はおおらかだったんですね。
 垣田 そこには気持ちのつながりがあったんですよ。
 佐藤 バブル以降は、お金にばかりにみんなの気持ちが向いてしまったからね。人間関係もギスギスしてくるんですね。
 廣野 介護保険制度が始まってからはケアマネジャーが、その人の生活を見るようになりましたでしょ。その前は、私たちがそれをしていた。今はケアマネが医師選びまでやるようになっている(笑)。ケア会議がありますが、なかなか時間的に出席できず、介護保険が始まってから、蚊帳の外に置かれているという意識を持つことが増えてきましたね。開業医にとってはそういう状況は辛いですね。
 吉田 特養でも老健でも、入所してしまうと主治医としてはその時点で役割は終わりですからね。最後まで診たいという思いは強くありますね。
 垣田 お話をお聞きして、地域に根ざした医療を長くなさっているんだなあと改めて感じました。やはり歴史のあるところは違いますね。それをみなさんがしっかり受け継いでおられることもすごいことだと思います。次の世代の医師にも、その伝統はぜひ大切にしてもらいたいと思います。

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