優先される医療サービス提供側の論理  PDF

 玄野 南丹市に美山診療所というところがあります。そこの事務長さんが言っておられましたが、美山町全域を1人の医師が回って在宅医療をするのは現実的には無理だというのです。どこかに一つ高齢者施設を建ててみんなそこに入所できるようにして、そこに医師が行けば、全部対応できるし、コミュニケーションも図れる。そういう施設を作る方がずっとありがたいと言われていました。
 廣野 私はもちろん訪問診療もしているし、他職種や病院とも常に連携しています。
 しかし、もちろん在宅も大事だけれども、状況によっては施設や病院を活用するのも必要なことで、そういうところとの連携もこれからの開業医の仕事だと考えています。幸い南丹市には、京都中部総合医療センターがあり、地域医療に積極的に取り組んでおられるので、心強いです。
 垣田 だだ、そういった状況を変えて、在宅医療を進めたいというのが国の方針です。少なくとも国は療養病床はやめ、代わりに介護医療院を創設すると言っていますが、これは今の介護施設と同じです。そこでは、50人に1人、100人に1人の医師しか配置しないとのことですので、医療施設とは呼べません。それでも医療院という名前だけつけて、介護の予算でまかなおうとしています。
 南丹市では、そういった国の方針をどう考えているのでしょう。
 廣野 サービスを提供する側の理論ばかりが先行して、受ける側の認識が薄いし、理解もされていないと思うんです。予算面を考えたら、在宅医療ということになってきます。しかし受ける方にしてみると、全然違ってきますよね。
 過疎化がだいぶ進んでいます。大家族の世帯なんて園部でも少なくて、ほとんどがお年寄りばかりの世帯なんです。子どもは遠方におり、日常的に来れない。また、昔のように「向こう三軒両隣」という近所づきあいももはやありません。
 吉田 在宅医療が広がると、財政的には持つのでしょうか。国は在宅を推奨しているけれども、ただでできるものじゃないですからね。ある年齢になると、収入だって限られたものになるでしょうし。収入が多い人はいいですが、ない人は介護保険だけで、どれだけの在宅医療がまかなえるのかな。
 診療報酬で在宅医療に格差をつけていることも疑問です。強化型と支援型と普通の診療所でなぜこれだけ点数が違うのか。やっていることは一緒なのに、報酬が違う。
 垣田 国の方針では、医師会が中心となり地域包括ケアを進めることになっていますが…。
 吉田 無理やろうなあ(笑)。
 佐藤 医師会独自で決めることができるのならいいですが、国の方針や規制がありますから。医師会全体に権限を与えられれば、また違ってくると思います。

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