知っておきたい 医院のための雇用管理 4  PDF

社会保険労務士 桂 好志郎

忙しいときに年次有給休暇を請求する職員に変更を要請できるか

 他の職員の都合や医院が忙しいにもかかわらず年次有給休暇(以下、「年休」という)を取る職員がいて、診療に支障がでることがあります。このような場合、年休を与えないことはできるのでしょうか?
 「忙しい」「支障がでる」とありますが、年間で忙しい時期はどのくらいありますか。また普段は遠慮なく取得できていますか? 気になるところです。
 ◇年休の権利の発生要件は
 ①6カ月間、継続勤務すること。
 ②全労働日の8割以上出勤すること。
 この要件を満たした場合、使用者は継続し、または分割した10労働日の年休を与えなければならないことになっています。(参考表1)
 ◇使用者の時季変更権
 使用者は、労働者の請求する時季に与えなければなりませんが、「ただし、請求された時季に有給休暇を与えることが事業の正常な運営を妨げる場合においては、他の時季にこれを与えることができる。」(労基法39条)とあり、使用者は、その時季を変更することが認められています。
 ◇「事業の正常な運営を妨げる場合」とは
 当該事業場を基準として
 ①事業の規模・内容
 ②作業の内容・性質
 ③代替要員の確保の難易
 を考慮して、客観的に判断すべきものであり、使用者が恣意的に判断することは許されません。
 恒常的に人員不足を来たしているような部署における代替要員の確保困難を、「事業の正常な運営を妨げる場合」には当たらないとした裁判例もあります。いつもギリギリの人数で業務を行っている医院の場合は、時季変更権の行使そのものが問われます。
 ◇使用者は、取得目的を理由に付与を拒否できない
 年休は、賃金の減収を伴うことなく、所定労働日に休養させるために付与されたものですが、法律上これをいかなる目的のために利用しようと関知せず、年休の利用目的が休養のためでないという理由で使用者が拒否することはみとめられていません。
 年休申請書に請求する目的が書かれていないから与えないというのは違法ですが、事情次第では時季変更権行使を差し控えようとして利用目的を問う場合等は、目的があくまでも時季変更権の行使に係る行為であるので、できるだけ書くようにとすることは差し支えないとされています。
 ◇運用次第でいろんな効果が
 少人数の医院では代替業務を行う職員の多能化促進の機会となり、全体のレベルアップにつながります。そしてなによりそれぞれの仕事の相互理解が深まりチームワークが強化されます。
 特定の部署、役割を継続した場合、ある意味の領地主義が発生することがあります。休暇取得者の業務を代替することによって、非効率的な部分のチェック、特定の職員にしか分からない業務の解消、ときには不正防止をすることができます。

表1 週所定労働日数が5日以上又は週所定労働時間数が30時間以上の職員
勤続年数 付与日数
6カ月 10日
1年6カ月 11日
2年6カ月 12日
3年6カ月 14日
4年6カ月 16日
5年6カ月 18日
6年6カ月以上 20日

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