環境問題を考える135  PDF

アニマルウェルフェア

 最近、少し思うことがあって、古い制作(2005年、08年)ですが、オーストラリア・ドイツ・アメリカの「ありあまるごちそう」「いのちの食べ方」「フード・インク」のビデオを引っ張り出して観ました。人間は植物にせよ動物にせよ、どちらもの生命を奪って食することで、自分の生命を維持しています。野菜や穀物、卵や肉、加工食品などの生産者と消費者との間にカーテンが引かれ、そのプロセスはわからないようにしてあります。
 ビデオでは野菜、穀物のところはさておき、ニワトリ、牛、豚などの飼育、殺傷、解体、加工、商品化についてのドキュメントが映像化されています。牛の種付け、腹部切開での胎児取りだし、回転プラットフォームでの搾乳、屠殺、吊るし、失血、皮剥、解体、製品化、ニワトリの交尾・排卵・孵化、大量のひよこの集荷、若鶏(ブロイラー)への6週間のすし詰め飼育、機械での殺傷、吊るし、解体、製品化、豚でも同じシーンが出てきます。
 解体工場では動物の体液にまみれながら労働者は黙々と同じ作業を続けています。ビデオは、家畜もそこで働く労働者も虐待されていると解説しています。私たちは、安いからといって、スーパーでこんな肉や卵、加工食品を買って毎日を過ごしてるのかと考えると罪悪感に悩まされます。
 身動きもできない狭い飼育場で動物の自由を奪い、人間本位にいのちを奪う、それを食べる、こんな残酷が許されてよいものでしょうか。こんなことを繰り返せば、人類はいつか必ず報復される、天に唾する行為です。「フード・インク」では自然の中で放牧され、トウモロコシが原料でない本来の飼料で育てられているニワトリ、牛、豚がいて、オーガニック農法・畜産の生産者が登場して、この手法を支持する流通業者や消費者がいるのが救いです。
 「動物たちは生まれてから死ぬまで、その動物本来の行動をとることができ、幸福な状態でなければならない」というアニマルウェルフェアの考え方があります。欧米には、このアニマルウェルフェア(以下、AW)の認証制度があり、消費者は肉製品、乳製品、卵などに貼られた認証ラベルを見て選ぶことができます。近代畜産における家畜飼育方法の虐待性や薬剤等による畜産物の汚染が大きな社会問題にもなっており、食の安全性と家畜の福祉につながっています。
 EUではアムステルダム条約(1999年施行)で締約国に「動物保護の改善とAWに対する配慮」を求めています。残念ながら、日本では「動物愛護管理法」で、個体の存在を尊重するということのみでAWの考えはありません。日本の畜産は世界的なAWの流れから取り残され、国際評価からも英国やドイツはAランク、フランス、メキシコ、ブラジルなどはBランク、中国、インド、タイなどCランクなのに、日本はDランクに属しています。2020年には東京オリンピックが開催されますが、食材調達としてAW認証の畜産物を提供できるかが問われています。日本のAW畜産のレベルを上げるには、政府・農水省の本腰を入れた具体的な政策・実行・中長期ビジョン、AW研究者の育成、AWを知り声をあげる消費者が必要です。AWと並走するアニマルライツの運動もあります。
 人に与えられる基本的な権利の枠を、種の壁を越え、動物まで広げ、理由をつけて動物を使ったりせず、同じ地球に生を受けた生物として他の仲間に対して、その権利を保障しようという運動です。植物も動物もすべての生き物は、等しくこの地球に生きる権利を持っています。この権利を尊重することが、持続可能な地球環境を維持し、私たちの子孫の未来の幸せにつながるのです。
 参照 『世界』2017年6月号・枝廣淳子著「私たちの食べている卵と肉はどのようにつくられているか」
(環境対策委員・山本 昭郎)

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