動画撮影を医療現場で活用しよう
読売新聞大阪本社編集委員 原 昌平
技術が進み、安いデジタルカメラでも動画撮影が簡単にできるようになった。タブレット端末でもスマホでも撮れる。常設型の監視・記録用カメラもたくさん出ている。
SDカード、ハードディスク、ブルーレイディスクといった記憶装置も安くて大容量になり、映像・音声を大量に保存することは難しくない。
動画の記録を、もっと積極的に医療現場で用いるべきではなかろうか。
用途の一つは、施設の防犯対策だ。とりわけ病院は、不特定多数が出入りし、心身の弱った状態にある患者が大勢いるのに、ガードが甘すぎることが多い。外部から何者かが侵入する可能性も、内部犯行もありうる。現にあちこちで事件が起きている。
むやみな管理強化を勧めるわけではないけれど、施設の出入り口、廊下、できれば病室にもカメラを付けたほうがよい。映像を常時監視するのは人手がかかるが、記録するだけでも、捕まりたくない人物への対策にはなる。
二つめは医療安全だ。どんな医療行為を実施したのか、病室を含めて、どういう診療補助行為・看護行為を誰がどんなふうにやったのか、あるいは、やらなかったのか。
電子カルテが普及しても、文字の記録だけでは事実経過を十分に確認できない。トラブルが起きた後に客観的に検証しにくい。患者・遺族との紛争は、医療行為の医学的評価よりも、事実経過をめぐってもめることが多い。
内視鏡手術は映像が残り、一般の手術の様子も映像で残している病院がある。もっと利用範囲を広げてはどうか。
三つめは、説明の記録である。手術やリスクを伴う検査など重要な医療行為の前にどんな説明をしたのか。記録しておけば無用な紛争を減らせるし、十分な説明を医療側に促す効果が期待できる。
四つめは、患者の状態の記録だ。病状の経過を確認するのに使えるし、診断ミスなど医療安全の検証にも役立つ。
精神科では、患者の状態を理由に強制入院、隔離・身体拘束などを行うことがよくある。それを必要と決めた精神保健指定医の判断が妥当だったのか、現状では第三者がほとんど検証できない。その時の状況や権利告知の様子などを動画で記録すれば、検証可能になり、不適切な判断による権利侵害も減るだろう。
五つめは虐待防止である。医療施設は高齢者虐待防止法や障害者虐待防止法の対象になっていないが、スタッフによる暴力、暴言、過剰な抑制などは現実に存在する。カメラを設置するだけで、かなり防げるのではないか。
もちろん、人を撮影した映像は個人情報にあたる。施設内に撮影のお知らせを貼り出すほか、入院時などにも個別に説明して患者の了解を得ておくことが原則になる。
データ流出を防ぐ対策は当然だし、ぜひ検証が必要な時だけ、組織的決定を経て再生するといったルール作りも欠かせない。監視されているというストレスを患者が感じないようにする工夫も要る。
そういった課題は確かにあるが、記録と言えば文字・書類に頼っていた時代をそろそろ脱してはどうだろう。