医師が選んだ医事紛争事例 63  PDF

ケナコルトの皮下注射で皮膚のトラブル

(30歳代前半女性)
〈事故の概要と経過〉
 3年前からアレルギー性鼻炎・結膜炎の既往症があり、他院にて投薬等で治療を受けていた。当該医療機関で、アレルギー性鼻炎に対して、ケナコルトA(40㎎)1Aを左上腕に皮下注射した。その後、患者はケナコルト注射部位の皮膚の変色、軽度の陥凹等を訴えて受診してきた。
 患者側はケナコルトの副作用について説明を受けていなかったと休業損害等、賠償請求してきた。
 医療機関側としては、原疾患であるアレルギー性鼻炎・結膜炎は投薬等の他の治療法では改善していなかったことを確認した上で、ケナコルトを使用したもので適応があり、副作用についての説明については記憶がないが、医療過誤とは判断しなかった。
 紛争発生から解決まで約3年5カ月間要した。
〈問題点〉
 診断に問題はない。ケナコルトの適応に関しても、初診時に投与するのではなく、再度、投薬等で様子をみることも可能であったと考えるが、患者が投薬等で効果がなかったとの訴えをしていることから、ケナコルトの投与が判断の誤りであったとは断言できないだろう。事後処置としても、患者が皮膚の変色、軽度の陥没等を訴えてきた時点で、形成外科を紹介しているので問題はない。説明に関しては、医師の記憶が曖昧であるが、「注射部位を揉むな」と常に指示しているとのことだった。ただし、ケナコルトの皮下注射は、適応がなく筋肉注射で対応すべきであった。皮下注射は危険である。したがって、医療過誤は認めざるを得なかった。
〈結果〉
 医療過誤が第三者的に指摘されたが、医療機関側が、賠償責任を負うほどの医療過誤はないと患者側に主張することにより、賠償請求が途絶えて久しくなったので、立ち消え解決と見做された。

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