地域の声に耳傾け真摯な対応を
理事長 垣田さち子
介護保険法等改正法案が今国会で成立する見通しである。現役並み所得の人の利用料を3割負担に上げるなど、利用者負担を拡大する方向での改変が目立つ。
2016年度の「老人福祉・介護事業」の倒産は、108件で前年度を大きく上回り、2000年の調査開始以来、最多の件数になったという。背景には、介護現場の慢性的な人手不足があり、介護職の賃金体系が余りにも低いという問題がある。超高齢社会を突き進んでいる日本で、介護の需要は増える一方のはずなのだが、それを見越して新しい施設を作っても、働いてくれる職員が思うように集まらないので無理をして給与を上げ、運転資金不足に陥って倒産にいたるケースが多いという。原因は財源不足である。国庫負担が低すぎるのだ。
介護保険制度の持続可能性をいうのであれば、現場で起こっている実態をよく見て、解決の方策を考えねばならない。形ばかりの制度が残っても、国民の求める介護の役に立たないのでは意味がない。
求められるのは、高齢期に入っても、その人らしく生きていくための支援である。全ての日本国民は、40歳から着実に介護保険料を納めている。年を取って必要となった時には、できるだけ低い負担でサービスを受けられるようにすべきであると考える。
このほど、京都府が「京都府地域包括ケア構想」をとりまとめた。この中で将来の医療需要と提供体制として、在宅医療等の必要量の国推計が出されている。16年度が2万1784人/日に対し、25年度は3万9979人/日とされており、1・8倍だ。
膨らむ在宅需要を、地域がどう受け止めるのか。その選択肢の一つして11年から登場したサービス付高齢者住宅(サ高住)も、NHK調査によれば11年からこれまでに、全国で260件もの廃業および登録取り消しの手続きが行われたことが、3月に報道された。国はサ高住推進の姿勢を崩してはいないが、安易に事業に参入した結果、経営不振に陥り廃業に至るようでは、高齢者の終の棲家としてはリスクが高すぎる。
今回の介護保険法等改正法案では、介護療養病床廃止後の新類型として「介護医療院」なるものが提示された。国は要介護者に対し「長期療養のための医療」と「日常生活上の世話(介護)」を一体的に提供する施設としているが、医療・介護の保障がどのようになされていくのか、注視が必要である。
国は医療と介護の連携を強調している。もちろん、それは必要なことだ。高齢になればなるほど、心身に不調をきたすのは当たり前のことだ。思うように動けない、頭の働きも落ちてきた…歳を取って死に向かう年代が、少しでも気分よく痛みもなく老いの日々を過ごせるように近代医学の恩恵を受けたいし、現代にふさわしい快適な衣・食・住環境を求めたい。行き届いた介護のある生活保障と医療は不可分である。豊かな介護の手がないと、医療も本来の力が発揮できない。しかし、国が進める医療・介護の連携体制は、財源も保障も人材も不十分なままで、地域に押し付けるだけのものである。これではすぐに限界がくる。
これから増え続ける高齢者世代がしあわせに過ごす姿を次の世代に示せてこそ、この国の未来が明るくなるのである。そのための施策は、高齢者のためだけではなく、次世代の若者のためでもある。
そして、その未来を実現させるためにも地域医療を第一線で担う医師の声は必要不可欠だ。協会は今後の地域医療について各地域の医師の声を集め、本紙にて紹介するとともに、要望等としてとりまとめ国、自治体に届けていく所存である。
2017年4月25日