マダガスカル4 関 浩 (宇治久世)  PDF

ムルンダバ― 夕日に映えるバオバブの樹々

翌朝7時、アンツィラベ出発、西のムルンダバまでの500㎞、8時間の行程だ。市街を出るとすぐに見渡すばかりの大荒野、砂礫、砂山と単調この上ない。小村落の家屋の大部分は葦造り、板囲いが目につく。野火のせいもあるのだろうが、広い範囲で黒焦げの帯が見える。おまけに木炭を作るため伐採され道路わきには高い樹々はほとんどなく、背の低い灌木群しか育っていない。木炭作成は11月、雨季がくるまでに終えておくのだという。34号線、35号線と進むが国道といっても窪地、路肩崩れが多い。通行車両はわずかで、移動する人の大部分は歩くか自転車、リヤカーである。途中、ほとんどの橋は川の大小にかかわらず、一車線で対面通行はできない。
中規模の村落であっても、ましな建物は教会しか目にしなかったが、目的地に近づくにつれ、家屋の数、建築材にも石積み、外壁塗装の住宅が増えてきた。途中、数頭の牛を引き連れている一団に出会った。1人、これ見よがしに銃を肩に掲げた男がいる。夜陰に乗じて家畜小屋に忍び込んでくる牛泥棒を撃つこともあるという。殺害しても事件にもならず、罪にも問われないというのだ。
途中JICAの作った日の丸が鮮やかにペイントされた上水道用タンクが道路わきに見られた。ここはJICAが活動したベマノンガ村で、学校建設も援助している。
このあたりから遠くにバオバブの巨木が点在するのが見えてきた。
ムルンダバの手前で曲がり、ほどなく進むと、「双子のバオバブ」、「バオバブの並木道」、「愛するバオバブ」など、まさに今まで抱いていたイメージそのままの雄大さで迫ってくる。それぞれが7階建ての高さにも達し、あたかも空に向かって手を伸ばしているように見える。
バオバブはセネガル語で「王様の木」、マダガスカル語では「レナラ、森の母(RENY母+ALA森)」といい、オーストラリア、アフリカ、マダガスカルでみられ世界で10種類もあり、マダガスカル全島で8種、ここムルンダバでみられるのはグランディディエリ(有名なバオバブの並木道)、フニー(観光客に人気の「愛し合うバオバブ」はこの種類)、ザーの3種類。葉は食用、実はそのまま食用やジュース、種から食用油、幹の皮は住宅の壁、建築材として利用される。
バオバブの木は高さ18~30mで胴回り7~10m、内部が空洞になることが多く、砂漠地帯、サヴァンナで見られ、樹齢は数百年から数千年といわれる。ここムルンダバの並木周辺で25~30本観察できる。しかし、近年農地拡大、サイクロンなどにより数が減り続けているという。1943年、アメリカで出版されたフランス人の飛行士・小説家であるアントワーヌ・ド・サン=テグジュペリの『星の王子さま』では、放置すると星を破壊する有害な巨木として描かれているが、バオバブの樹々はまさに「悪魔が引き抜いて逆さまに突っ込んだ」と形容されているように、木が逆さまになって、根っこが上にあるみたいに見える。まるで別の惑星に来たような不思議な光景が広がり、サン=テグジュペリも実際にこの地を訪れたに違いない。樹木群全体を見渡すことができる広い草地で各国の観光客とともに夕日が沈むのを待つ。意外と長く夕焼けが残り、そして突然暗黒に包まれた。並木道からムルンダバ市内まで18㎞、海岸沿いのホテル「レナラ」へ。

ページの先頭へ