憲法を考えるために 55  PDF

共謀罪

国家主義を教育現場に持ち込む教育基本法改悪、プライバシー侵害、情報公開や報道の自由の阻害などをもたらす特定秘密保護法、憲法が認めない集団的自衛権を容認する安全保障関連法、そして戦前の思想・言論弾圧に猛威をふるった治安維持法を想起する共謀罪。これらに通底するものはなにか、そしてそれは私たちになにをもたらすのか。
共謀罪とは、犯罪について、2人以上の者が話し合って合意=共謀するだけで処罰することができる法案。犯罪は犯意が生まれ(共犯の場合は合意を経て)準備され(予備)、実行に着手し(未遂)、実行の結果が生じる(既遂)。そして刑法は既遂を処罰の対象とするのを原則とし、未遂は特に法に定められた例外的なもの(この場合も侵害の危険性を発生させたことが対象であり、危険な意思が処罰の対象ではない)、予備はさらに例外的なものであり、殺人・強盗・放火など重大犯罪に限定され、予備の一つである共謀の処罰は、いわば危険な意思の処罰は、内乱陰謀罪、私戦陰謀罪など特殊な場合に限定されている。しかしこの共謀罪法案の対象は600を超える。
政府は「国連越境犯罪防止条約」の批准に共謀罪制定が必須だとしているが、日弁連によれば、その必要性はない。またテロ対策に関してはすでに、例外的に定められた陰謀罪8、共謀罪15、予備罪40、準備罪9もあり、共謀共同正犯も認めらている。またテロに関する国際条約は「核によるテロ行為の防止」を除いて、すべて批准していて、条約に定められた行為を国内法で犯罪と規定し、未遂以前から処罰できる体制にすでにある。このように共謀罪の必要性の根拠はまやかしといわざるを得ない。では今なぜそれを制定しようとするのか。その真の狙いは何か。
そもそも心の内にある犯意・合意の有無、それが犯罪に当たるかなどの判断は第三者から見てきわめて分かりにくい。その段階から処罰するとすると、捜査機関の判断による恣意的な捜査・検挙や、プライバシー侵害が容易に起こり得る。また政府にとって好ましくないと判断されれば市民運動や労働運動も共謀罪の捜査対象になり得てしまう。人と人とのコミュニケーションそのものが犯罪行為となるので、盗聴など捜査上の人権侵害も起こりやすい。共謀罪が持つこのような根本的な問題は、いかような条件を付け加えても防ぐことはできず、それは我々の自由と人権を阻害する以外の何物でもない。
(政策部会・飯田哲夫)

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