医師が選んだ医事紛争事例 58  PDF

診断の遅れが認められたケース

(40歳代後半女性)
〈事故の概要と経過〉
不正出血が続くので来院した。診察して明らかな出血は認められなかったが、子宮頚部細胞診を施行した。5カ月後に再度出血で来院して経過観察としたが、その後も出血で複数回来院してきた。数カ月が経過して、別のA医療機関において類内膜腺癌と診断され、入院して手術が施行された。なお、再発の兆候は認められなかった。
患者側の主張は以下の通り。
①何度も来院したのに子宮内膜スメアの検査をしなかった②類内膜腺癌の発見の遅延により、癌が必要以上に進行したのではないか③複数回のプラノバール投与で腹痛が生じた④癌が再発した場合の医療機関側の対処―。
医療機関側としては、①に関して、もっと早期に検査をしておくべきだった。②に関しては根拠を持って断言できるものではない。③プラノバールを投与し続けたのは、患者がプラノバールを服用すると腹痛が生じるので、服用するのを独断で中止したため、確実に服用するために何度も処方した。④に関しては不確定なことであり、当該医療機関としては見解を控えたいとのことであった。
紛争発生から解決まで約1カ月間要した。
〈問題点〉
以下の通りチェックを行った。
①40歳代後半女性の場合は、出血が止まらない場合に子宮体癌を疑うのは当然ではないか。少なくともA医療機関の確定診断から半年前には子宮体癌を疑い、適切な検査をしておくべきではなかったか。
→もっと早期に検査をしておくべきだった。
②内膜肥厚ないとの当該医師の根拠は何か。コルポスコピーや子宮内膜掻把等の検査を施行したのか。
→両方とも実施していない。
③抗生剤と子宮収縮剤の名称は具体的に何であるか。
→抗生剤=トミロン錠、子宮収縮剤=マレイン酸メチルエルゴメトリン錠。
④StageIbG1では再発の危険性は小さいか。
→断言はできないが、再発の可能性は小さい。なお、再発時にも診断の遅れと因果関係があるか否か不明となろう。
⑤A医療機関における手術は、たとえ半年前に癌が発見されていても、その時点で適応のあった可能性はあるが、診断遅れのため、不必要な手術が付加されたか否かは後に調べるつもりだった。したがってその時点での患者の確認される損害は、約180日間の診断の遅れのみ。
→患者は子宮摘出術のみで済んだ可能性を示唆しているが、リンパ節郭清は早期に癌を発見していた場合に必要なかったか否か判断できない。
癌についてはもっと早期に疑うべきであり、漫然と診察を続けていたと主張されても反論し難く、したがって診断の遅れは認められるだろう。しかしながら、子宮摘出のみで済んだはずとの患者の手術に関する主張については、医学的に断定できなかった。
〈結果〉
医療機関側は全面的に過誤を認めて賠償金を支払い示談した。なお、今後の患者の予後に関する賠償については、癌の再発の可能性は低いと判断されたため、民法第95条に則り、仮に再発した場合にはその時点で再交渉が可能であることを患者側に伝えて納得を得た。

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