救急医療における裁判例
(60歳代後半女性)
〈事故の概要と経過〉
原付バイクを運転中にタクシーとの交通事故で救急搬入となった。患者の救急搬入時には外来で婦人科の医師が対応していたが、ICUから脳外科医師とともに当該医師が担当した。CT検査の結果、腹腔内出血を認め緊急手術となったが、翌日に外傷性脾損傷で死亡した。
患者側は検査時の対応や遅れ、更に手術ミスに対して、証拠保全を申し立てた後に、タクシー会社、運転手、医療機関の三者を被告に訴訟を申し立てた。
医療機関側としては、検査時の対応や遅れはない。外来からICUまで約1時間15分経過しているが、当該医療機関としては成績のいい方である。更に手術に関しても医学的に反論できるとして、医療過誤を否定した。
紛争発生から解決まで約1年5カ月間要した。
〈問題点〉
外来からICUに入るまで約1時間15分を要しているが、その間のデータをはじめ、カルテ記載が殆どなかった。バイタルを取った形跡も認められなかった。医療機関側は医師のオーダーなしに看護師が取った可能性を示唆したが、記録がない以上は裁判上でも信用されないだろう。つまり、ICUに患者が入るまで、時間がかかり過ぎていたことは勿論、適切な医療を搬入時に施行していなかった可能性が高い。患者は脾臓損傷のみであったので救命の可能性も否定できない。従って医療過誤を否定することは困難と考えられた。なお、当該医療機関のカルテは電子化されていたが、極めて確認し難く、入力時間が医療行為時間と誤解されるような形式になっており、コンピューターソフトの改善が求められた。
〈結果〉
医療機関側はあくまで医療過誤を否定し続けたが、裁判上ではやはり不利な様子が窺われ、最終的には裁判所から和解が勧告された。当初、医療機関は判決を望んでいたが、和解勧告額が訴額の1割以下だったこともあり、最終的には和解に応じた。