2016診療報酬改定こうみる(1)全体
副理事長 鈴木 卓
どこまでも社会保障費抑制へ
今回の診療報酬改定率は昨年12月21日厚労相と財務相会談後に、前回改定から始まった薬価・医療材料費の引きはがしを踏襲し、ネットでマイナス(▲)0・48%と発表された。しかし、その後の資料では、薬価に含まれるべき通常の薬価再算定分をはじめ、湿布薬枚数制限など薬剤関連項目が「外枠」引き下げとなっていた。これらは全て本来薬価の「内枠」になるべき内容で、現に財務省の予算資料には、「ネット▲1・43%(=国費▲1495億円、医療費▲6200億円)」と明記されている。結局、高額引き下げの悪印象をごまかす姑息な発表であった。このような大幅な医療費削減は、財務省、内閣、財界で構成されている「経済財政諮問会議」やその関連会議で決定され、例えば「経済財政運営と改革の基本方針2015(骨太の方針)」では社会保障費の抑制、後発医薬品普及促進などが謳われている。
今次主要な改定点や評価は、本紙2958号の第1面「談話」や同3面「解説」を参照していただき、ここでは大きな流れの中での俯瞰をしておきたい。
急性期削減策の点数に
改定内容は前々回から引き続く、2025年に向けた川上から川下への医療提供体制の再編、すなわち急性期病床削減を更に強力に推し進めるテコとなっている。川上の7対1病床の算定要件の、「重症度、医療・看護必要度」基準を満たす患者割合が15%から25%へ引き上げられた(経過措置あり)。融和策として対象患者に全身麻酔手術後等の「C項目」が加えられた。また、在宅復帰率も退院先に一部有床診療所が加えられたが、75%から80%へ引き上げられた。これらの要件引上げは、特に中小病院にとっては7対1の維持を厳しくする一方、10対1では看護必要度加算が病像に応じたそれぞれが引上げられ、転換引力となる。中医協で医療側が恒常的取り扱いとして求めていた「病棟群単位の届け出」はあくまで10対1への移行を目的とした経過措置と位置付けられ、2年後の取扱いは明記されていない。支払い側が求めていた平均在院日数そのものの短縮は見送られたが、退院促進に向けて「退院支援加算1、3」や「地域連携診療計画加算」「退院訪問指導料」に高点数が付けられ、今後の在院日数短縮への誘導・布石とも受け取られる。また、受け皿病棟の一つ「地域包括ケア病棟入院基本料」はサブアキュートにも対応すべく、手術・麻酔の包括を外す要件緩和が図られた。「回復期リハ病棟」に導入された“アウトカム評価”は、今後他の分野にも拡大する概念として重視すべきである。
療養病床から在宅へ移行促す
療養病棟においては、より重症者の受け入れや在宅移行促進が盛られた(「療養病棟入院基本料2」における高医療区分50%要件や「在宅復帰機能強化加算」の見直しなど)。なお、療養病棟については、この間「療養病床の在り方等検討会」整理案で出された現行25対1医療療養病床を、介護療養病床や施設系とまとめた新施設体系(「医療内包型」と「医療外付型」の2類型)への移行を前提とした経過措置的扱いと受け止められる。
管理料算定対象拡大も患者総数など要件が多岐に
川下の在宅医療については、自宅における介護力の限界が認識されたと思われ、サ高住等の集合住宅・施設を増やし、その場に在宅医療を呼び込むべく管理料の算定対象施設の拡大が図られた。単一建物については重症度と訪問の回数、およびそこでの管理患者総数で「在総管」料等が変わる複雑多岐な点数表となり、結局単一建物内管理患者数が10人を超えると減額が大きくなる。本来、管理料は患者数で変わるものではないハズである。また在宅医療の拡大を企図して在宅医療専門医療機関が新設された。しかし、開設要件がかなり厳しく、地域規定や管理料算定要件で対象患者数が制限されると予想され、対応できない患者は地区医師会が引き受けるベシとも読める規定が盛り込まれている。このような川上・川下改革の流れは「2025年地域医療構想(策定ガイドライン)」と診療報酬との整合性を図る動き、更には『保健医療2035』があたかも国の既定方針となっているかのごとく、その推進本部が診療報酬改定内容に介入する動きを伴い、今後も要注意である。
一方で運動の成果も
今回改定では外来初・再診料については全く議論されず、点数も据え置きとなった。
過去に中医協で議論されてきた診療基本料(医師の技術料の評価)論点や内保連から提案されたインフォームドコンセントに関する技術料や注射薬処方料は無視された。
その中で外来診療の個別課題として、京都協会が会員の要望を受け独自に厚労省交渉を続けてきた、特定疾患療養管理料が1カ月以内に他医療機関に入院していた時に査定されていた問題や、在宅自己注射指導管理料に関わる問題など数項目が今回解決、改善される成果をあげている。