2011年度京都府内NO2測定結果
大気中のNO2濃度は低下傾向も、 京都府内で平均化 びまん性の拡散
環境対策委員会(京都府保険医協会 京都府歯科保険医協会)
- 実施日:2011年12月1日(木)午後6時〜2日(金)午後6時の24時間
- 発送数:1822(医科:1325、歯科:364、事務局:22、定点:111)
- 回収数:987(回収率 全体:54%、医科:51%、歯科:51%)
はじめに
保険医協会環境対策委員会の呼びかけに応じていただいた、会員の皆様による京都府内二酸化窒素大気汚染調査も今回で節目の11回(10年間)を数えました。ご協力に心より感謝申し上げます。 大気中の二酸化窒素(NO2)は主に自動車の排ガスによるものです。10年間にわたる調査結果からは、京都市内、京都市以外の府内で、これまで汚染が少なかった地域が減り、汚染が拡散され、全体的に汚染が進んだことが伺えます。自動車の排気ガス対策、低燃費、ハイブリット車、電気自動車の登場、若者の車離れなどにより、大気中のNO2濃度は低下傾向にありますが、一方では道路の整備・拡張・建設(写真1)などにより、びまん性の拡散が京都府内に起きています。
大枝IC―大山崎IC間の24年度開通をめざし、建設工事中の第二外環状道路(にそと)
測定方法
今年度は、京都府保険医協会会員のここ5回(4年間)の調査に1回以上NO2測定にご協力をいただいた方を対象に、プラスチックカプセル(天谷式NO2簡易測定カプセル)を郵送させていただきました。このカプセルを原則、会員医療機関玄関先あるいは近辺道路の、地上から1・5mの高さに粘着テープで取り付け、24時間大気にさらした後回収、協会へ返送していただきました。 カプセルは配布1822個、回収987個、回収率は54%(10年52%、09年53%、08年49%、07年45%、06年35%)でした。07年から引き続き、本年も配布対象の協力者を絞っています。測定に問題のあるサンプルが149個あり、統計からは除外しました。またその他として、四条烏丸付近、油小路と十条通、横大路付近、五条御前の定点観測に111個(回収108個)を用いました。
測定は大気汚染全国一斉測定日に合わせて
測定は大気汚染全国一斉測定日(年2回、他の1回は6月の第一木・金曜日)に合わせた2011年12月1日(木)午後6時から2日(金)午後6時までの24時間で、1日の天候は曇り、2日は一時雨のち曇りで、比較的寒い24時間でした。大気中のNO2濃度は天候と相関し、晴れ、無風の日は比較的高く、雨や風の強い日には、測定値は低く出ます。また狭まった空間ほど拡散されにくいため高く、広い空間ほど低く出ます。
測定基準
測定基準は例年通り、国の定めた環境基準(1978年)41〜60ppbに準じて、20ppb以下を“きれい”、21〜40ppbを“少し汚れている”、41〜60ppbを“汚れている”、61ppb以上を“大変汚れている”と分類しました。なお、京都市は当面の環境保全基準を40ppb(1986年以前は20ppb)以下としています。
測定結果
2011年度NO2測定データ集計一覧は表1に示します。 地域の「平均値」からは、京都市内では北区を除いて、すべての区が21ppb以上の“少し汚れている”に入っています。その中で最も高いのが南区の26ppb、次いで伏見区25ppb、上京区24ppbとなっています。最も低かった北区は20ppbで“きれい”に入ります。 京都市以外の府内では、久世郡30ppb、八幡市25ppb、京田辺市24ppb、長岡京市・向日市・宇治市・城陽市22ppbの順に“少し汚れている”に入ります。一方20ppb以下の“きれい”な地域は、京丹後市14ppb、与謝郡・南丹市16ppb、舞鶴市・福知山市・船井郡・亀岡市・綴喜郡17ppb、木津川市・相楽郡19ppb、乙訓郡20ppbと続きます。
ワースト10とベスト10は表2、3に示しましたが、61ppb以上の“大変汚れている”地点は、今回は前年同様ありませんでした。天候による雨・風の影響があるためか、昨年と比較し“きれい”な20ppb以下の地域や地点が増えています。 NO2濃度平均値年次推移(表4)で過去11回・10年間の経過を見ますと、測定し始めの頃と比較し、NO2濃度は全般的に低下傾向を示しており、高い地域と低い地域の差が縮まり、大気汚染が平均化し、府内全体に広がっている傾向がみられます。
阪神高速道路8号京都線(「京都高速道路」)は上鳥羽出入口〜巨椋池インターチェンジ間が2008年1月19日に、また同年6月1日、山科出入口から鴨川東出入口間が開通しました。2011年3月27日に斜久世橋区間(写真2)の完成により、一気に山科〜伏見を経て、第2京阪道路につながりました。一昨年から測定を開始した高速道路出入口付近の十条通付近は23〜32ppb、油小路通付近は26〜39ppb、横大路付近は32〜58ppb、四条烏丸交差点付近は30〜48ppbでした。これまで続けてきた元京都府医師会館近辺の五条御前交差点は、今回13ppbでした(図2)。
2011年3月開通した阪神高速京都8号線の「斜久世橋区間」
NO2の特性と人体への影響
測定後、これまで協会事務局へ最も問い合わせが多いのが、自動車排気ガスの人体への影響です。そのため、もう一度自動車の排気ガスについて、おさらいをしてみます。 人間の経済・社会活動にもとづく物質の影響で、大気が汚染されることを大気汚染といいます。大気汚染物質には、酸性雨、光化学オキシダント、窒素酸化物、粒子状物質、硫黄酸化物、一酸化炭素、ダイオキシンなどがあります。私たちがこれまで測定してきたのがNO2濃度で、これにより大気汚染の程度をはかる指標にしています。 ものが燃える時、大気中の窒素と酸素が高温に加熱され、化学反応を起こし、NO並びにNO2が発生します。現代の大気中のNO2は、50%以上は自動車による排ガスです。NO2の人体への影響は、水に難溶性のため上気道で吸収が行われないので刺激が感じられず、すべて深部の肺胞に無刺激で到達します。そのため、上気道での沈着が少なく、細気管支や肺胞などの下気道に影響を与えます。NO2の高濃度(2500ppb以上)吸入では吸入直後は無症状ですが、数時間後に咳漱、発熱などの症状が始まり、急速に肺水腫へと進行します。また、数週間の潜伏期を経て、繊維性閉塞性細気管支炎(BFO)を発症させる可能性があります。NO2濃度と喘息の発症率とは相関関係にあり、NO2自体は無機化合物のため喘息の抗原物質とはなりにくいものの、気道の線毛を脱落させ、アレルゲン作用を増強させます。またTリンパ球やBリンパ球の増強に関係し、一旦患った喘息をさらに悪化させます。その他、大気汚染物質で重要なものに、浮遊粒子状物質があります。
ディーゼル排気微粒子の毒性
浮遊粒子状物質(SPM)とは大気中に浮遊する粒子直径が10ミクロン以下のものをいいます。その濃度はNO2と相関関係にあるとされています。SPM中さらに粒子直径が2・5ミクロン以下のものにディーゼル微粒子(DEP)があります。DEP中には、非常に有害な発ガン物質やダイオキシンなど、様々な毒性の強い有機化合物がたくさん含まれていて、肺胞に達し血液内に入っていきます。DEPはこれまでの研究成果や動物実験などから健康への影響として、1.肺ガン、2.アレルギー性鼻炎、3.気管支喘息、4.食物アレルギー、5.自己免疫疾患、6.環境ホルモン作用などを引き起こすことが知られています。そのため、日本を含めた先進国で喘息や花粉症などの粘膜アレルギーの増加の原因物質として、DEPは大いに注目されています。 大気中のNO2もDEPも共に、その大部分が自動車排気ガス由来のものであり、微量でも長年にわたる吸入は、人体へ呼吸器系をはじめ全身に悪影響を及ぼします。環境庁が行った1986〜1990年度、1992〜1995年度の2期にわたる、埼玉、大阪、京都の学童5000人の調査では、NO2濃度、SPM濃度と喘息様症状有病率との間に有意な相関関係が見られるとされています。
文明崩壊への警告
2012年1月3日付の「朝日新聞」インタビュー2012で、地理・歴史学者のジャレド・ダイアモンド氏(「銃・病原菌・鉄」の著者)は現代文明にとって最も大きな脅威が、環境・人口問題であるとし、「今の文明の環境・人口問題は12に分類できます。自然破壊、漁業資源の枯渇、種の多様性喪失、土壌浸食、化石燃料の枯渇、水不足、光合成で得られるエネルギーの限界、化学物質汚染、外来種の被害、地球温暖化、人口増、1人あたりの消費エネルギーの増加です。そのひとつでも対策に失敗すれば、50年以内に現代の文明全体が崩壊の危機に陥るでしょう。火のついた導火線付き爆弾を12個抱えているようなものです」と答えています。 世界の至る所で熱波、寒波、豪雪、洪水、干ばつ、山林火災等が起こり、異常気象は誰の目にも明らかです。地球温暖化は待ったなしの課題です。12分類の一つである地球温暖化を防止するため国連気候変動枠組条約締約国会議(COP)が作られました。昨年暮れに、南アフリカ・ダーバンで開催されたCOP17では、新たな枠組みづくりに向けた道筋を示すとともに、新枠組みの発行まで「空白」を生まないよう、京都議定書(1977年京都で開催されたCOP3で決定された法的拘束力を有する国際条約)を継続することを決めました。新たな枠組みは、米国や中国を含むすべての国が参加する法的文書とされ、2015年に開かれるCOP21で採択し、20年に発効させると決まりました。しかし、この会議の中で、日本政府はロシアやカナダとともに京都議定書の継続に不参加を表明し、世界の流れに背を向けました。また、日本の財界は費用がかかることを理由に、温暖化対策の義務付けに強く反対しています。 温室効果ガスには、二酸化炭素(CO2)をはじめ、メタン(CH4)、一酸化二窒素(N2O)、フッ素化合物などがあります。温暖化の寄与度はそれぞれ、63%、18%、6%、13%となっています。そのうち「運輸部門」はCO2排出の15〜20%を占め、その9割弱が自動車によるものです。大気中に自動車によってばらまかれるのは大気汚染物質であるNO2や粒子状物質だけでなく、CO2も排出され、地球温暖化に一役買っています。ガソリン1リットルに対し2・3?のCO2を排出するとされています。先述の世界危機12分類のうち自動車に関連するものは半数を占めています。 自動車は人やモノの移動手段として、社会や個人に多くの利便性を与えてきました。しかし反面、人々の生命・健康・安全を脅かす存在としても認識されるようになり、自動車交通事故、道路渋滞、環境破壊(大気汚染、騒音、振動など)、石油消費、空間占拠など多くの負の側面も抱えました。
おわりに
これまで11回(10年間)にわたって、会員の皆様のお力をお借りして、NO2測定大気汚染調査を行ってきました。10年間という一つの区切り、その結果からは、大気汚染は府・市内で平均化し、びまん性に拡散しています。高速道路上では、NO2濃度は概ね基準値60ppbを超過し、渋滞や上り坂で短期暴露指針値200ppbを、長いトンネルの中では、車室内で短期暴露指針値の約7倍が観測されたという報告があります。自動車の運転が、事故の危険性だけでなく、高濃度の大気汚染にさらされてもいるのです。 私たちは生命や健康を守るために、また次世代へ残さねばならない地球環境持続のために、小さいながらも具体的な日常行動が重要です。 これまでのご協力にあらためて謝意を表しますと共に、今後の測定にもご協力をお願い申し上げます。