TPP政府発表の三つの欺瞞
国民への正しい情報ないまま7月正式参加は問題
安倍首相の公式表明(3月15日)を受け、政府はTPP交渉参加への準備を進めている。報道では米国は年内妥結を目指し、日本政府も7月のマレーシア会合(7月15日〜25日)には最後の2日間のみ参加する見通し。協会は、他団体と構成するTPP参加反対京都ネットワークを通じ、日本が参加してもこれまでの合意を覆すことは不可能。米国の思惑を丸呑みすることになると指摘。政府の論法は国民を欺くものと主張している。
実際に政府はごまかしを重ね、国民に本当のことを伝えていない。如実にあらわれたのが、一部メディアも報じた事前協議「合意」の一件である。4月12日、日米両政府がそれぞれ発表した事前協議の「合意」をめぐり、三つのごまかしが指摘できる。
日米関係を「対等」と見せかける
アメリカ側(USTR=アメリカ通商代表部)のリリース文書は、アメリカの「要求」へ日本がどのくらい応じたか、というトーンであるのに対し、日本政府文書にそのトーンはゼロである。これは「対米従属」批判へのごまかしである。
日本政府文書は「知的財産権」「政府調達」「急送便」を削除
アメリカ側が示す、日本に求める「非関税措置項目リスト」は、「保険・透明性・投資・知的財産権・規格・基準・政府調達・競争政策・急送便・SPS(植物検疫)」。これに対し、日本政府発表はそのうち「知的財産権」「政府調達」「急送便」を書いていない。これは妥協すべき内容を少なく見せかけるごまかしである。
アメリカ側文書に農産物への配慮はない
日本政府発表文書には、日本の農産物への配慮とされる文言がある。しかしアメリカ側文書にその文言はなく、ごまかしである
両国が各々リリースした文書とはいえ、その見解がまるで違ってよいのか。TPPは国民生活全体に大きな影響を与える。政府が何かしらの判断で交渉に関する公式発表を、省略し書き換えることが許されるはずがない。この経過は、TPPをごまかさねば国民を説得できない代物と露呈した。日本が「聖域」を守ることはもはや不可能と指摘する識者も増えている。
一方、安倍首相は参議院選挙も視野に国民皆保険制度を「しっかりと守っていく」と強調する。しかし、TPPは国内法も含めてあらゆる貿易障壁を取り除く。早くから協会が指摘してきたとおり、交渉参加で避けられない薬剤・医療機器高騰が医療本体を痩せさせ、必要な医療を保障できない事態を生むことは間違いない。保険加入さえさせておけば「皆保険」を守っているというようなロジックは通用しない。それは枠組だけの話であり、いつでも・どこでも・誰でもの医療保障が崩されることは皆保険の解体に他ならない。今、政府はTPPを視野に医療産業化への取り組みを急速に強める。元々、安倍政権に本当の意味での皆保険を守る意思はない。今の政府は交渉すべてを任せるに足る存在ではない。
私たち医療者はあくまで交渉からの撤退を強く求め、取り組みをすすめねばならない。これが現在の状況である。
なお、交渉の問題点を内田聖子氏(アジア太平洋資料センター(PARC)事務局長)のブログが日々、報道している。ぜひご参照されたい。