B型肝炎救済財源で社会保障費削減せず/政府、基本方針決定
集団予防接種の注射器の使い回しを原因とするB型肝炎訴訟をめぐり、政府は7月29日の閣議で、被害者救済の基本方針を決めた。すでに発症している患者らに対して当面5年間に支払う8000億円のうち、7000億円を臨時増税で調達。残る1000億円は厚生労働省所管の基金剰余金や遊休資産の売却で確保し、社会保障費の削減は行わない方針だ。
●厚労省予算から1000億円、雇用関連基金が候補に
細川律夫厚生労働相は閣議後の会見で「原因が集団予防接種であることを踏まえ、国民全体で広く分かち合う観点に立ち、費用を税負担によって行うことをお願いする」と述べた。
厚労省が捻出する1000億円については「社会保障費を削減して救済に回すことがあってはならないという観点から工夫し、努力した」と説明。「社会保障費は絶対に削減しないということでいいか」との質問に対し、「私の考えはそういう考えだ」と述べ、社会保障費を削減して被害者救済に充てることはないと強調した。財務省関係者によると、自公政権時代の雇用創出事業で造成した基金が候補に挙がっており、社会保障費の削減は想定していないという。
政府は、未提訴者も含めて当面5年間に必要となる救済費用は1兆1000億円と試算。このうち、未発症の「無症候性キャリア」に支払う3000億円分の財源は検討を先送りした。増税の具体的な税目は今後、政府の税制調査会で議論する。
基本方針で示した救済の枠組みによると、救済対象者は1948−88年に集団予防接種の注射器の使い回しで満7歳になるまでにB型肝炎ウイルスに感染した人などで、裁判所が認定。発症者(死亡含む)に1250−3600万円、感染20年以上の無症候性キャリアに50万円(感染20年未満は600万円)、発症から20年以上たった慢性B型肝炎患者には150−300万円を支払う。
請求期間は5年間だが、請求状況により請求期間や財源措置を延長できるよう、施行5年後の見直し規定を設けた。確保した財源は、社会保険診療報酬支払基金に新たに設置する基金に繰り入れ、給付事務も同基金で行う。
訴訟では6月28日、原告と国が基本合意書に調印。政府は今後、基本方針を踏まえ、財源確保策を含む関連法案を策定する。細川厚労相は「被害者への給付に万全を期すことができるよう、所用の法案の成立に向けて全力を尽くす」と述べた。(8/1MEDIFAXより)