農業・教育・医療も同じ構造 キューバの有機農業から学ぶ
吉田太郎氏(円内)の講演をきく238人の市民
京都府保険医協会は、キャンパスプラザ京都で、長野県農業大学校の吉田太郎教授を講師に、食の安全・農業・グローバリゼーションをテーマに講演会を開催。予想をはるかに超える238人の参加者がつめかけた。2人の参加記を紹介する。
医療団体が「食の安全」にも取り組む意義
政策部会理事 尾崎 望
先日、吉田太郎氏講演会「食の安全・農業・グローバリゼーション」が開催された。保険医協会政策部会の企画であり、手前味噌の謗りを免れないとはいえ、なかなかすばらしい内容の講演会だった。氏は冒頭、(食の)自給率低下、安全、格差社会、いずれもがグローバリゼーションから来た当然の帰結であると断ずる。氏は、グローバリゼーションのもと、日本の企業が発展するためには外国での家電・自動車などなどの生産とのバーターで食材は輸入せざるを得ないのはやむをえないという流れでいいのかと主張する。気候変動のあおりでオーストラリアで作物が不作になったら、日本の食糧はどうなるのか?
この視点に立ってキューバの農業、医療、教育と多岐にわたって90分間論じられた。おのおのについてもじっくり聞きたい中身を含んでいるだけに若干端折りすぎだったかの弱点は残ったにしても、氏の論点は十分に伝わった。「農」についていえば、キューバは農薬と石油に依存しきらない農業を構築した。前時代に逆行するのではなく、新たな科学技術を駆使して害虫を駆除し、また収量もあげてこの課題を達成した。
「医」については私達医療人にはきわめて関心のあるところだが、一言で言えばきめ細かなファミリー・ドクターの網の目を張り巡らして、住民のアクセスを保障した一方で、西側からの経済封鎖にもかかわらず、きわめて高度の医療技術を作り上げ、医療レベルの向上を続けている。また老人が大切にされている実態も報告された。
最後のスライドは「なんだ、農業も教育も医療も同じ構造じゃん!」のタイトルで締めくくられた。行き着くところ一握りの多国籍企業の儲けを大切にするか、命を重視するか、その選択に尽きるという問題提起である。会場には日頃見慣れない顔も多数参加されており、おそらく食の安全に関心をお持ちの方々が多数おられたことと推測される。もちろん講師の名前に惹かれてではあるにしても、医療団体が取り組んだことの意義も感じ取ってくれているだろう。私達は医療を守る−医業経営、医療安全、国民皆保険など含めて医療を守ることを掲げている団体であるが、根っこのところで食の安全を守ること、国民の平等の教育権を守ることと切り離しては考えられないということを教えてくれたような気がする。
講演「キューバから知る本当の豊かさ」を聴いて
下京西部 山本 昭郎
8月31日午後、吉田太郎氏の講演を聴いた。大変面白かった。少しやせ気味、めがねをかけ、スーツを行儀よく着て、やや高めのトーンで、ジョークを交えながら、たくさんのスライドを使っての講演であった。グローバリゼーションから始まり、ワーキングプア問題、地方主権主義に至り、小生の不明で初めて耳にする化学肥料・農薬発明者ハーバー、高収量品種開発者ボーローグの緑の革命まで淡々と講演は進んだ。話は石油問題にまで及び、中東石油が2億年前の三畳紀のテチス海に由来することを、この時初めて知った。
スライドと講演は、いよいよキューバの農業に入り、アメリカの経済封鎖とソ連邦の崩壊により1995年までにキューバ農業生産は90年の半分に減ったため、町の至る所に農園をつくり、自給自足、地産地消が始まった。天敵昆虫や細菌を用いたバイオテクノロジーによる病害虫駆除、無化学農薬の開発、集約稲作システムがとられ、見事に復活した本当の有機農業は、世界の注目を浴びるようになった。
続いて、キューバ医療がファミリー・ドクター制を基本に、予防医療を重視し、医療費無料化・経費節減を果たした。また、独自の研究・技術を通じて、サトウキビから抽出した安全な高脂血症薬PPGの製造、世界唯一の髄膜炎Bワクチンの開発などを手がけていることも驚きだった。高齢化社会の到来は、キューバも日本と同じで、スライドで見る老人サークルの充実度や高齢者のいきいきとした姿は、眼を見はるばかりだった。
国家予算に占める教育、医療・社会保障の割合は断トツで、軍事費を削り教育に力を入れた結果、児童の学力はユネスコの調査で、フィンランドと並ぶトップクラスを示している。最後に、農業も教育も医療も同じ構造だといったスライドで講演は終了した。講演を聴いて、社会や生活の豊かさ、人間の幸せは、決してお金やGDPで測れないということがよく分かった。
【京都保険医新聞第2656号_2008年9月15日_4面】