資格証 今こそ考え直すとき/重症化・感染拡大リスク要因となることが露呈
新型インフルで通知 協会は市町村に要望
新型インフルエンザの国内感染の広がりを受け、厚生労働省は5月18日、「新型インフルエンザに係る発熱外来の受診時における被保険者資格証明書の取扱いについて」(保国発第0518001号、保医発第0518001号)を全国の自治体に通知した。通知は、被保険者資格証明書(以下、資格証)交付世帯に属する被保険者に新型インフルエンザの疑いがあり、「発熱外来」を受診した場合、一般の保険証と同様の窓口負担とすることを主とした内容である(グリーンペーパーNo.153別冊にて通知本文を詳報)。通知を受け、協会は翌19日、京都府内全市町村に対し、全ての資格証交付世帯に対しての短期被保険者証交付等を求め、「新型インフルエンザ対応にあたっての被保険者資格証明書の取扱いについての緊急要望書」を送付した。
子ども・高齢者…次々と修正迫る
協会は従来から、資格証が、保険料収納率の向上に役立っておらず、そればかりか住民の受療権を侵害するものであることを、繰り返し指摘し続けてきた。昨年、資格証交付世帯に属する子どもたちが医療を奪われていることが大きな社会問題となり、ようやく国は国民健康保険法を改正、義務教育終了時までは資格証交付世帯に属する子どもに対しての保険証交付を決め、09年4月1日から施行された。後期高齢者医療制度でも、高齢者の医療の確保に関する法律に拠る資格証交付対象となる「滞納1年」の「後期高齢者」が、本年6月の納期限をもって多数生まれてくることへの不安と怒りが広がり、国は、低所得者が資格証交付に原則至らないようにすることを含め、慎重な取り扱いを求める通知(5月20日)を出している。つまり、資格証の引き起こす受療権侵害は多くの国民が知るところとなり、ついに国は検討せざるを得ない状況になってきていると言える。
新型インフルエンザの国内発症への対応として出された今回の通知自体は、国としては当然である。しかし、立ち返って考えなければならない。
保険料負担をしない被保険者の給付を抑え、国民を医療から遠ざけ、その生命と健康を脅かす仕組みを導入したのは国自身である。「新型インフルエンザかも知れないのに保険証がなくて医療にかかれない」状態に陥りかねない国民は、国の作った制度により生み出されるのである。
資格証交付世帯の人たちが新型インフルエンザに感染し、重症化するようなことがあれば、その責任の一端は、保険料を支払わなかった被保険者ではなく国にある。ましてや、それが感染拡大の契機になるとすれば、事は重大である。その点で通知は、そういった事態を引き起こす可能性を作った当事者として最低限行うべき当然の措置であろう。しかし、資格証交付制度さえなければ、このような通知を行う必要すらなかったではないか。
この通知は裏返せば、資格証が感染症の重症化や感染拡大のリスクとなることを、厚生労働省が自ら認めたものでもある。
さらに問題は、この通知の実効性である。京都府内4113世帯という資格証交付世帯(08年9月15日現在)に対し、今回の通知内容がどのような手段で周知・徹底されるのか。一片の通知を出したところで、実際に一人ひとりの国民にその内容が届かなければ、それはアリバイ作りやその場しのぎの取り繕いにしかならない。
堺市では国の通知と時を同じくして、約4000世帯の資格証交付世帯に対し、短期被保険者証交付に踏み切っている。これは、感染拡大や重症化防止に資するのみでなく、保険証のない住民が、今日の感染拡大状況の下で陥っている不安や恐怖を取り除くためにも、大変重要な取り組みである。
今回、協会が求めた要望項目は次の2点である。(1)新型インフルエンザの重症化や感染拡大防止の観点から、資格証交付世帯に属する被保険者の受診抑制を回避すべく、同証交付世帯に対し、緊急に短期被保険者証を交付すること。(2)(1)の取り組みを貴自治体が実施しない場合においても、今回の通知内容について、全資格証交付世帯に対し、周知・徹底すること。
今後も、いつ新たな感染症が猛威を振るうことがあるかわからないのが現実である。国の通知はそれでもなお資格証への固執を感じさせる。真に国民の生命や健康を守る立場にあるのならば、これを期に制度を見直すべき時期にきているのではないかと考える。
京都・八幡市が対応策
協会の緊急要請後、京都市は資格証世帯に文書を発送して連絡を徹底することを決めた。また八幡市は24日、同市では資格証を発行してはいないが、国保証の未交付世帯747世帯に6月末までの短期証を発行することを決めた。