談話/請求方法のオンライン限定撤回は大きな運動の成果
情報の目的外使用など、さらなる問題解決を求める
2009年11月25日、レセプトのオンライン請求義務化を定めた請求省令が改定され、診療報酬の請求方法は電子レセプトによる請求を原則とし、オンライン請求のほか光ディスク等による請求も可能となった。オンライン請求しか認めないとする「義務化」は事実上撤回された。
請求省令改正の概要は、(1)オンライン請求または光ディスク等による請求を原則とする(電子レセプトによる請求は義務化)、(2)09年11月26日現在、手書きで請求している医療機関は請求件数に限らず手書きで請求可能(要届出)、(3)常勤の保険医が全て65歳以上の医療機関で電子レセプト請求の体制がない医療機関は書面(手書きかレセコン出力)で請求可能(要届出)、(4)電子レセプト請求に対応していないレセコン使用の場合、リース期間や償却期間の終了(11月25日以前の契約であって、最長5年間か2015年3月末。要届出)までは書面で請求可能―の4点である。10月10日に示された改定案からも、大幅に緩和されている。
京都府保険医協会は06年4月にオンライン請求を義務化する省令改定が行われて以来、義務化撤回の運動を続けてきた。07年春には65歳以上の会員を対象に行った実態調査(回答率6割超)の結果、義務化期日の到来により、回答者の3割が「引退」の意志を示すという愕然たる結果を公表した。この調査結果は『京都新聞』が1面トップで取り上げ、全国の保険医協会・医会、日本医師会がアンケートを実施、影響の深刻さが浮き彫りとなったところである。
その後、神奈川県保険医協会・大阪府保険医協会の努力により、オンライン請求義務化撤回訴訟原告団が2千人以上組織され、義務化が営業の自由の侵害、法律による行政の原理違反(省令で義務化して良いのか)、プライバシー侵害等の憲法違反を犯し、国民全体に大きな影響を与える問題であることを明らかにした。
また、京都府保険医協会をはじめ、全国の保険医協会・医会は粘り強く撤回運動に取り組み、国会議員、先の衆院選候補者に対して要請と対話を繰り返し、問題点を理解してもらうよう努めてきた。さらに、10月に改定案のパブリックコメントが求められた時も、全国の多くの保険医が撤回に向けて意見表明した。
私たちが求めてきた「手上げ方式」の完全実施ではないものの、オンライン請求「義務化」の事実上撤回とも言える請求方法のオンライン限定の撤回、手書き請求の継続等の大幅要件緩和は、粘り強く運動を継続してきた保険医の大きな運動の成果であり、大いに誇りたい。
同時に保険医の主張を汲み、地域医療の崩壊の実体も勘案して、請求方法の限定という医療とは直接関係のない理由で医療機関が廃院するという愚を回避した新政権の判断と、長妻厚生労働大臣をはじめ政務三役の尽力を評価したい。
一方、常勤保険医65歳未満の手書き医療機関に対しては、電子レセプト請求に関する体制整備に「努める」ことにされた。09年4月からのオンライン請求義務化を猶予された病院に対して、毎月「状況届」を提出させ、地方厚生局からも指導する等、医療機関を追い込む施策が採られたが、同様の施策が手書き医療機関に対して絶対に行われてはならない。
レセプトは単なる請求書に過ぎない。しかし、患者の疾病・治療経過が記載された、非常にセンシティブなデータを有する。今回、電子レセプト請求までは義務化されたため、高齢者医療確保法第16条が存続する限り、厚生労働省へのデータ提供と、これを活用した医療費適正化計画の作成、実施または評価の手法は残る。レセプト情報の民間利用も検討されている。憲法13条が定めたプライバシー権侵害の問題と併せ、レセプトデータを目的外使用させないための取組みが重要である。これらの問題に関しては、全国の保険医協会・医会と連携しながら、運動を継続し、新政権に対して改善を求めていきたい。
特に、レセプトを「所見無きカルテ」と同様の様式に変更して、疾病名と医療行為のリンク付けを強要し、そのデータを「標準的医療」と称した疾患別包括支払い方式(DRG/PPS)の導入に用いて、「標準」に収まらない医療行為は患者負担とするなど、医療保険給付の縮小に用いることのないよう、要請していきたい。
また、社会保障カード導入の検討の中で、再び請求方法をオンライン請求に限定する政策に戻らないことをお願いしたい。
私たちは、「保険で良い医療」の実現を望んでおり、それを阻む者とは毅然として闘う。地域医療を担う者として、そのような闘争に力を奪われることなく、保険診療の充実に傾注できることを望んでいる。
2009年11月26日
京都府保険医協会
理事長 関 浩
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宛先(敬称略)
内閣総理大臣 鳩山由紀夫
厚生労働大臣 長妻 昭
厚生労働副大臣 長浜博行
細川律夫
厚生労働政務官 足立信也
山井和則