課題は山積 どうなる? 医療事故調査制度  PDF

課題は山積 どうなる? 医療事故調査制度

 医療・介護総合確保法が、6月18日に成立した。その中で、医療事故調査制度は、15年10月1日の実施が予定されている。現段階で判明している内容について、問題点を指摘する。

制度の趣旨

 事故調の趣旨は、医療事故が発生した医療機関において院内調査を行い、その調査結果を創設する民間の第三者機関「医療事故調査・支援センター」に報告する。同センターは、事故調査報告を受け、収集・分析を通して、原因究明と再発防止につなげる。そのための医療事故に係る仕組み等を医療法に位置づけ、医療の安全を確保することを目的としている。

全医療機関が対象

 事故調の対象は、医療機関に勤務する医療従事者が提供した医療に起因し、または起因すると疑われる死亡または死産であって、当該医療機関の管理者がその死亡または死産を予期しなかったもので、将来的には重篤な後遺障害を残す案件にも拡大適用される方向という。

 この法律は、全医療機関に適用される。医師が一人しかいない診療所でも、支援団体に協力要請を行い、院内に事故調査委員会を設置し、調査を行うことが必要となる。その結果を遺族に説明するとともに調査内容を第三者機関「医療事故調査・支援センター」にも報告し、遺族の納得を得て終了となる。

 一方で、調査結果の説明に遺族が納得しない場合や、医療機関がより客観的な調査が必要と判断した場合は、第三者機関に再調査を依頼する。これを受け、第三者機関は調査し、結果を医療機関と遺族に報告する。

 制度の主目的は再発防止であり、個人の責任追及ではない。なおかつ紛争処理や、解決の機能はない。要するに、厚労省としては、どこでどのような原因で医療事故が発生したのかを情報収集したいということのようである。

再発防止のための原因究明

 厚労省は検討部会の中で、制度の目的は原因究明と再発防止で、第三者機関から警察への通報はしないとしている。しかし、調査報告書等を責任追及・訴えの資料に使わないと法的に明記されているわけではない。即ち、医療事故調査・支援センターの調査内容を遺族が訴訟に使えないとはなっていない。遺族が、予期せぬ死亡事故で仕方がないと了解すればよいが、第三者機関の調査内容の結果から何かミスがあるのではないかと勘繰ることは可能で、刑事や民事で訴えられる恐れがある。調査報告書を訴訟での証拠として採用しないことが担保されるのであれば、再発防止制度としてよい制度だと思うが、現時点では責任追及しないことが確約されていないという難しい問題がある。

誰が予期せぬ死亡事故?

 法文が明示されるまでは、診療行為に関わる予期せぬ医療事故となっており「誰が予期しない」のかが、不明であった。法文では、「医療機関の管理者が予期できない」と明記されたが、遺族が予期せぬ場合ももちろん出てくることが予想される。

 該当する事故が発生した場合、調査制度の仕組みではまず医療機関が届け出ることになっており、直接遺族から第三者機関へ届け出るルートは確保されていない。こうした遺族への対応も現時点では不明瞭だ。

異状死との関連は?

 また、医師法21条の異状死とどう関連するのかという問題が残っている。医師法21条では、死体に犯罪の痕跡をとどめている場合、異状を発見した場合、医師に対して届出義務を課している。2001年4月医政局長は、医師法21条は医療事故を想定した規定ではないと厚生労働委員会で答弁したが、04年4月13日に最高裁は、検案とは医師が死因等を判定するためには外表を検査することと述べている。その後、厚労省の担当課長からも、死体の外表を検査し、異状があると医師が判断した場合には警察に届け出る必要があると述べている。医師法21条との関連については、国会答弁や最高裁判所の判決ではなく、法改正による周知徹底が必須であろう。

費用負担はどこが?

 費用の問題もある。誰かが調査費用を支払わなければならない。院内調査の費用は、骨子の段階ですでに当該医療機関負担といわれているが、第三者機関へ依頼した場合の費用の負担については、明確になっていない。

 厚労省が出している第三者機関の調査費用の具体的な額は、45万〜90万円と幅がある。当然、遺族側にも負担してもらうことになっており、その想定額は5000円〜5万円程度となっている。仮に残額が医療機関持ちとなってしまうと負担が大きすぎる。

未整備な死因究明の検査等

 死因究明を行うには、各種検査等が必要になる。まず解剖だが、解剖できる医師も非常に少ない。充足している地域もあるかもしれないが、十分対応できない問題がある。また、死後CT、Ai検査を行う検査施設も十分そろっていない状況であることも問題だ。

 厚労省としては、具体的な運用方法などを示すガイドラインを作成中と言われている。そのたたき台の案を取りまとめるのが、厚生労働科学研究費事業「診療行為に関連した死亡の調査の手法に関する研究班」(研究代表者=西澤寛俊全日本病院協会長)で、7月17日初会合を非公開で開催した。同研究班は、10月中旬に中間とりまとめをし、2015年3月末に最終的な報告書として厚労省へ提出する予定と聞く。何がどうなっているかまだまだ具体的に見えてない状況で、実施時期が目前に迫っている。

■対象となる医療事故が発生した場合の流れ

「医療事故に係る調査の仕組み等のあり方に関する検討部会」とりまとめ(5月31日)より

(1)第三者機関への報告−厚労省推計 1300〜2000件/年

(2)必要な調査の実施−省令で定めるところにより、速やかにその原因を明らかにするために必要な調査を行わなければならない。病院等の管理者は医学医術に関する学術団体その他の厚労大臣が定める「医療事故調査等支援団体」に対し、医療事故調査を行うために必要な支援を求めるものとする(医療法第6条の11)。Aiや解剖を行う。原則、外部の専門家の支援を受け、客観性を担保する。医療事故調査等支援団体としては、都道府県医師会、医療関係団体、大学病院等を想定。費用は当該医療機関が負担。調査手順等はガイドラインによる、とされている。

(3)調査結果について遺族への説明および第三者機関(医療事故調査・支援センター)への報告−院内調査の結果は、報告書として遺族に説明・開示するとともに第三者機関に報告する。

(4)第三者機関の医療機関調査結果報告の整理分析−第三者機関から警察へ直接通報はせず、行政にも報告しない。

(5)医療機関または遺族から調査の依頼があった場合−申請により厚労大臣が指定する(同法第6条の15)第三者機関に依頼(行政から独立した民間組織で現行の「日本医療機能評価機構」や「日本医療安全機構」の機能統合・一元化案あり)。

(6)第三者機関が調査−第三者機関への再調査依頼費用は、45〜90万円と試算(国の補助金、学会・医療関連団体、遺族負担)。遺族負担は5000円〜5万円程度を想定。

(7)医療機関および遺族へ報告を行う。

■医療事故調査制度をめぐる国内の主な経過■

1999年1月 横浜市立大の患者取り違え手術
2月 都立広尾病院の消毒液点滴事故
7月 杏林大病院割りばし死事故
(医療事故の社会問題化、刑事事件化相次ぐ)

2001年4月 日本外科学会声明 診療行為に関連した「異状死」について

2004年2月 「診療行為に関連した患者死亡の届出について〜中立的専門機関の創設に向けて〜」内科・外科・病理・法医の4学会が共同声明、9月・19学会による同様の声明

2005年6月 日本学術会議が第三者機関創設を提言
9月 死因究明モデル事業始まる(運営主体:日本内科学会)

2006年2月 福島県立大野病院の医師逮捕(→08年8月に無罪判決)

2008年4月 医療の安全の確保に向けた医療事故による死亡の原因究明・再発防止等のあり方に関する試案−第三次試案−(厚労省)
6月 医療安全調査委員会設置法案(仮称)大綱案(厚労省)。院内調査主体の民主党案骨子公表(通称:医療の納得・安全促進法案)

2009年1月 産科医療の無過失補償制度スタート

2010年4月 日本内科学会に日本外科学会、日本病理学会、日本法医学会、日本医学会が運営主体に加わり「一般社団法人 日本医療安全調査機構」設立

2012年2月 医療事故に係る調査の仕組み等のあり方に関する検討部会−医療事故調制度創設に向け議論始まる。医療側の過失の有無にかかわらず医療事故の被害者を救済する「無過失補償制度」の検討会の中に設置。
6月 死因究明2法成立「死因究明等の推進に関する法律(施行より2年の時限立法)」「警察等が取り扱う死体の死因又は身元の調査等に関する法律」

2013年5月 厚労省は、医療版事故調のアウトライン「調査目的は、原因究明と再発防止、責任追及はしない」を提示。

2014年6月18日 「地域における医療及び介護の総合的な確保を推進するための関係法律の整備等に関する法」が成立。
25日 官報告示
7月17日 「診療行為に関連した死亡の調査の手法に関する研究班」本格議論開始。今後月2回程度会議を開く。
10月末 ガイドラインの中間とりまとめ目指す・意見聴取

2015年1月 ガイドライン最終とりまとめ開始
3月 研究班が報告書提出
4月 厚労省がガイドライン公表
10月1日 医療事故調査制度の施行

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