診療報酬改定に関する談話を発表/病院急性期と在宅に偏重した改定/開業医医療への無理解に強く抗議する  PDF

診療報酬改定に関する談話を発表

病院急性期と在宅に偏重した改定
開業医医療への無理解に強く抗議する

 協会は2月10日の診療報酬改定答申を受けて同日、理事長談話を発表した。

関浩 京都府保険医協会理事長

理事長 関 浩

 2月10日、中医協は2012年度診療報酬改定を答申した。医科本体改定率1・55%、約4700億円は、急性期医療、病院勤務医等の医療従事者の負担軽減・処遇改善に約1200億円、在宅医療の充実に約1500億円、がん治療、認知症治療等の評価充実に約2000億円として配分された。これを見る限り、開業医の外来機能は、全く評価の対象にされていない。

 一方、3度目の診療報酬・介護報酬同時改定であり、「社会保障・税一体改革」が構想する「2025年のあるべき医療・介護の姿」=「医療・介護サービス提供体制改革」を念頭においた「最初の第一歩」を踏み出す改定となった。そのキーワードは「再編」と「連携」であろう。

1.急性期医療への資源集中、入院医療機関の再編と連携推進

4700億円の内訳を示した円グラフ。急性期医療・勤務医負担軽減25%、在宅医療の充実32%、がん・認知症治療等の評価充実43%。

 国が構想する医療提供体制の改革の中心課題は、1. 急性期医療への資源集中、2. 地域包括ケアシステムの構築―である。

 医療機関の急性期、回復期、慢性期への機能分化を進めるため、入院医療機関の再編を図り、全ての病床をふるいにかける。

 まず、一般病棟入院基本料約67・8万床のうち、49%、32・9万床を占める7対1に着目。改革イメージでいう高度急性期18万床に比して多過ぎるとの判断から、平均在院日数を1日短縮して18日に、看護必要度基準を満たす患者割合を10%から15%に引き上げる。また、10対1の施設基準に看護必要度の評価を導入、13対1にも看護必要度評価加算を導入した。

 慢性期については、一般病棟13対1、15対1をターゲットにして、90日超入院患者に療養病棟と同様に医療区分・ADL区分を用いて点数を算定するか、出来高算定だが平均在院日数の計算対象とするか、選択させる。療養病棟に類似して慢性期を受け持つのか、類上げして急性期を受け持つのかの岐路に立たされるが、どちらも厳しい選択肢となる。

 急性期、回復期、慢性期、在宅の間の患者の流れをスムーズにするための連携策が用意された。退院調整加算が再編され、全ての病棟で算定可能となった。入院から7日以内に退院困難患者を抽出、早期に患者家族と退院後の生活を話し合う等、入院早期からの退院調整を評価した。また、救急搬送患者地域連携紹介加算・受入加算を2倍にするとともに、同一医療機関で両方の届出を可能にした。受入加算は療養病棟でも算定可能とした。救急・在宅等支援病床初期加算を一般病棟13対1、15対1に限り追加した。つまり、慢性期の患者の急性増悪期の受け皿や在宅療養支援病院となる役割が強調されている。

 さらに、障害を持つ小児、精神疾患患者、認知症患者についても、急性期、回復期、慢性期、在宅の間の流れをスムーズにするための措置が新設、再編され、強化されている。

2.支援診療所・支援病院の再編、訪問看護の重視

 在宅医療では、在宅療養支援診療所・支援病院に機能強化した上位ランクを新設した。常勤医3人以上という普通の開業医には考えられない高いハードルだが、条件付きで複数医療機関の連携でも認める。機能強化した支援診、支援病院では、往診料の緊急・夜間・休日の加算や、在宅時医学総合管理料、在宅がん医療(旧末期医療)総合診療料が引き上げられたが、答申で分かる評価はここまでだ。

 今回の改定で大幅に改善、要件緩和、新設がされたのは訪問看護である。週4日以上の頻回訪問看護が認められる患者に、複数の在宅療養指導管理を受けている患者等が追加された。また、介護保険の要介護者等であっても、週4回以上の頻回訪問看護が必要と主治医が判断した場合、一時的に医療保険に切り替わるが、この対象に退院直後の患者が追加された。さらに、連携点数では、退院時共同指導時の点数・療養費が新設、外泊日、退院当日の療養費が新設された。その他、褥瘡専門、がん専門の訪問看護が新設、精神科訪問看護が再編されている。

 国は地域包括ケアにおいて、中心的な担い手は医師でなく、権限拡大した看護職員、介護職員とすることを構想している。今回の同時改定では、訪問看護、訪問介護で再編が行われ、介護報酬では定期巡回型訪問介護看護サービスや複合型サービスが新設された。訪問看護では医療と介護の給付調整も更に細かくなる。また、地域包括ケアにおける社会保障の給付は介護保険のサービスが中心となる。ケアマネジャーによる入院時の情報提供、退院・退所の調整、緊急時のサービス利用調整等が介護報酬で新設され、連携調整における権限は増す。

 国が医師に期待する役割は、在宅医療開始時の指導、急変時の対応・指示、看取りである。上記新サービスに対する訪問看護指示料や、たん吸引に係る指示料が新設されたことと合わせ、在宅ケアにおける医師の役割見直しが国の構想のまま進んで良いとは思えない。保険医の側からの発言が必要である。

3.維持期リハビリの介護保険への移行策を強化

 リハビリについても、急性期、回復期、維持期への流れの強化、維持期での介護保険優先の姿勢がより明確になった。次回改定以降、要介護者等に対する算定上限日数超えの維持期リハビリは原則算定不可にするとアナウンスした上で、状態の改善の見込み等をレセプト等に書けない場合の点数を引き下げた。一方、介護報酬の通所、訪問リハビリは移行時や急性増悪時の取扱いが改善される。

 我々は疾患別リハビリの算定日数上限を廃止し、個別リハビリは医療保険から給付する仕組みを求めてきたが、逆の方向が強く打ち出された。維持期のリハビリは何としても介護へ移行させると言わんばかりの政策的改定に抗議する。

4.開業医の外来機能を無視した改定内容に抗議、再診料復活を求める

 以上のように、入院から在宅の流れを加速させると同時に、急性増悪期の戻しも評価されている。また、入院医療機関間・病棟種別間連携、病診連携、医療と介護の連携を図る点数が新設、評価されている。この流れと連携の中で、地域包括ケアシステム構築に向けた同時改定の影響は、診療所にも及ぶ。

 しかし、上記に関係しない開業医の診療報酬について検討すると、ほとんど考慮されていない。診療側委員は再診料を71点に戻すことを強く要求したが、支払側が強く反発、厚労省も終始消極的な姿勢で実現されなかった。地域医療貢献加算は時間外対応加算と名称変更し3区分とされたが、従来の基準は3点で変更ない。24時間、常時電話対応した場合は5点加算するが、人権無視の異常な点数である。同一日複数科受診時の再診料が新設されたことは評価できるが、点数は極めて低い。

 診療所は、病院の3倍近い初診患者、2倍以上の再診患者を診療し、夜間・休日でも病院の8割近い数の患者を診療している。多種多様なレベルの患者に対応して重症化を防止するとともに、トリアージ機能も有している。この機能への評価がほとんど無視されたことに強く抗議する。少なくとも「後発医薬品のある新薬の追加引き下げ」分約250億円を財源に繰り入れて、再診料を71点に復活することを求めたい。

 正式告示、通知の発出の後、協会では保団連に協力して新点数の検討を行うとともに、会員各位へ情報提供していく。また、各科での影響も検討する。日常診療から見つかる不合理に対して、会員各位の声に基づき改善運動を展開する所存である。

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