診療報酬改善要求に向けた連続アンケート調査企画
京都府保険医協会では、診療報酬改善に要求に向けて、4つのアンケート調査を京都府内で実施した。本号より4号連続で紹介。これらアンケート調査結果から問題点を導き出し、厚生労働大臣や中央社会保険医療協議会委員らに向けて改善を求めていく。
第一弾 規制で患者の受診機会が奪われる実態が明らかに
やはり「他医療機関受診」が合理的―他科受診に係るアンケート調査結果
2010年4月診療報酬改定で、入院中の患者の他医療機関受診の取扱いについて規制が強化された。受診の理由に関わらず入院料は減算、外来側も算定制限が課せられ、算定できない内容については合議精算させられるといった取り扱いが行われている。2012年4月診療報酬改定で精神病床等の取り扱いが一部変更されたものの、診療に要した費用が一部支払われないという異常な制度は、根本的に改善されていない。そこで今回、協会は、眼科・耳鼻咽喉科・皮膚科(皮膚泌尿器科含む)・精神科(神経科・心療内科含む)の標榜のない病院を対象に、「他科受診が必要な入院患者への対応に関するアンケート調査」を実施した(結果は下掲)。
入院中の患者の他医療機関受診は、入院料の減算や外来での算定制限を設けることで、厳しく規制されているが、調査結果からは、全診療科を標榜するなどし、すべての疾患に対応できなければ、他医療機関の医師による診療を必要とする患者が必ず発生することがはっきり打ち出された。また、実際に他医療機関で受診を行った診療科は、眼科をはじめ多様な診療科にわたっている。
入院医療機関で診ることのできない疾病については、厚生労働省が原則としている「転院」という手続きではなく、算定上の規制があるにもかかわらず、他医療機関受診という対応方法が最も多く用いられていることも明らかとなった。これは、検査機器等の充実や、元々かかっていた医師に受診すること等で、的確な診断・治療が行えるからと考えられた。
一方、入院中は点数表による規制があることを知らない患者や家族による他医療機関受診が入院医療機関に伝えられず多数発生している他、本来なら他医療機関受診をさせたかったが、入院料減算を考えて受診させることができなかった事例や他医療機関受診が必要となると考えられる患者の新規入院を断った事例が発生していることがわかった。入院中の他医療機関受診の規制により、患者が必要な受診機会を奪われていることが明らかとなった。
この規制は、診療報酬点数を検討する厚生労働大臣の諮問機関「中央社会保険医療協議会」で大した議論が行われることもなく、官僚の専権事項として導入されたものである。このような経済的な規制が導入されたにもかかわらず、医療機関は患者の治療を優先させるために、できる限り他医療機関受診を行わせている。しかし非常に残念ながら、他医療機関受診を行わせたかったができなかった事例、新規入院を断った事例が発生したのは、厳しい病院経営の中、経済的な規制に屈っせざるを得なかったためである。言うなれば、官僚の専権事項として導入された入院中の他医療機関受診の規制により、患者が適切に受診をする機会が奪われた事例である。
1病院では必ずしも診療が完結しないという現状を受け止め、患者の受診する機会を奪い、療養に直接悪影響を及ぼすと考えられる、入院中の他医療機関受診に係る規制は、診療報酬点数表からなくすべきであることを、協会は厚生労働省等に引き続き訴えていく。
他科受診が必要な入院患者への対応に関するアンケート調査結果
[アンケート実施方法等]
・実施期間:2013年7月17日〜8月14日
・対 象:京都府内の眼科・耳鼻咽喉科・皮膚科(皮膚泌尿器科含む)・精神科(神経科・心療内科含む)の標榜のない病院(148病院)
・回 答:68病院(回収率:46%)
・目 的:入院患者の他医療機関受診の必要性と現状を明らかにする
・方 法:質問票によるアンケート調査(質問票を郵送によりを送付し、郵送又はファックスにて回収)
1.自院で診療が完結しない患者は必ず発生する
自院の医師だけでは診療が完結しない入院患者が発生したことはあるかを尋ねたところ、すべての病院が「ある」と回答した(図1)。全診療科を開設しない限り、自院のみでは診療が完結しない患者が必ず発生し得ると考えられるが、その通りの結果が出た。
今回調査の対象としたのは、眼科・耳鼻咽喉科・皮膚科(皮膚泌尿器科含む)・精神科(神経科・心療内科含む)の標榜のない病院であり、148病院であるが、これは京都府内の全病院(173病院)の実に86%に当たる。これら主要な4科のみをとらえても、標榜できていない病院は数多く存在する。
2.最も多い対応は「他医療機関受診」
次に、自院で診療が完結しない入院患者が発生した場合の対応で、最も多い方法を尋ねた。「他医療機関を受診してもらう」との回答が圧倒的に多く、59病院(87%)に上った。続いて「転院させる」で7病院(10%)という結果だった(図2)。
厚生労働省が診療報酬点数表上「原則」としているのは「転院」である。しかし、希望すればいつでもどこでも入院できるという状況ではない。現在入院が必要な疾病と、自院で診療が完結しない疾病と双方の診療ができ、かつ入院受け入れが可能な他の病院を探すことは容易ではない。探すことに時間を要し、病状を悪化させるわけにはいかない。
3.「眼科」を筆頭に多様な科を他医療機関受診
次に、他医療機関受診を行った診療科を尋ねた(複数回答)。最も多かったのは「眼科」で、38病院(64%)であった。精神科28病院(47%)、泌尿器科27病院(46%)、耳鼻咽喉科と婦人科それぞれ25病院(42%)と続いた(図3)。
他医療機関受診を行った診療科が複数の科にわたっていることがわかる。これらの診療科を1科でも標榜できていないと、他医療機関受診等が必要な患者が発生し得るということである。
4.的確な診療をするには「他医療機関受診」
次に、自院で診療が完結しない患者が発生した場合、なぜ「対診」や「転院」でなく「他医療機関受診」を選択するのか、その理由を尋ねた(複数回答)。「検査機器がそろっているなど、的確に診察してもらいやすい」が最も多く、40病院(68%)で、「元々かかっていた医師に診てもらう方が、患者にとってよい」が26病院(44%)と続いた(図4)。
「対診」を行う際、すべての検査機器等を持参できるわけではない。的確な診療を行うためには「他医療機関受診」による方が合理的と考えられる。また、元々かかっていた医師であれば、病態把握も容易であり、効率的に専門外の診療を受けることができると考えられる。
「その他」では、専門医に診てもらうため、専門外、専門医への相談といった主旨の回答が最も多かったが、中には「手術対応ができないため」といった切迫した理由も見られた。
5.患者の受診機会が奪われている実態が明らかに
次に、他医療機関受診が点数表上制限されていることで、実際発生した事例について尋ねた。最も多かったのは、いわゆる「勝手受診」、「患者又は家族が、独自の判断で受診してしまった」との回答で、37病院(54%)だった(図5)。入院中の他医療機関受診の手順を踏まずに受診したことになり、診療報酬点数表の規定から逸脱した行為である。しかし、患者や家族が、このような点数表の手順を理解しているとは到底考えられず、制度の不備を露呈していると言わざるを得ない。
最も特筆すべきは、実際に患者の受診機会が奪われているという趣旨の回答があったことである。「他医療機関受診をさせたかったが、入院料減算を考えて、受診させることができなかった」との回答が15病院(22%)。「他医療機関受診が必要となると考えられる患者の、新規入院を断らざるを得なかった」との回答も13病院(19%)あった。入院料減算がなければ必要な療養を受けられていたはずが、入院中の他医療機関受診規制により、受診機会を奪われた事例が多数発生している現実が明らかとなった。
6.入院料減算や制度の仕組み改善を求める意見等多数
また「他医療機関受診に対する規制」について、自由意見を求めたところ、入院料の減算や、制度仕組み等を批判する意見、患者の受診抑制・受入制限につながる等を危惧する意見、合議精算の問題を指摘する意見、標榜科や治療の限界を指摘する意見、患者・家族等による受診に関する意見等、多数寄せられた。