記者の視点(27)  PDF

記者の視点(27)

読売新聞大阪本社編集委員 原 昌平

歴史を反省する意味

 弱い者に暴力を振るった人間が「あれはいじめではなかった」「いじめの定義は様々だ」「ほかの奴もいじめていたから」「いじめられた側にも原因がある」などと主張して、通用するだろうか。

 やられた側は「反省していないじゃないか」「またいじめられるのではないか」と反発や不安を感じるだろう。

 歴史認識に関連する政治家の「妄言」が後を絶たない。過去への反省をいやがる態度、民族差別の意識を見え隠れさせる言葉は、相手を傷つけ、日本の品位を下げるだけでなく、外交上の立場も経済的な利益も損ねている。

 政治に携わるには、近現代史の大局的な把握が必要だ。

 明治維新は「このままでは植民地化される」という危機意識から始まり、欧米列強に対抗するために産業の近代化と軍事力の強化を図った。

 ところが日清戦争、日露戦争に勝ったことで図に乗り、列強にならって力による領土・勢力圏の拡大を進めた。韓国の併合、満州国の建国、さらに目的も不明確なまま、泥沼の日中戦争に突入する。その行動に経済制裁を加えた米英などを相手に戦争を始めた結果、焦土の敗北に至った。

 日本の行動が本当にアジア解放のためだったなら、仮に負けても、今なおアジアから反発が出るはずがない。そうではなく、近隣の諸民族を蔑視する風潮と相まって、軍部の横暴・独走がエスカレートし、道を間違えたのである。南京虐殺、従軍慰安婦、731部隊といった問題も、そういう流れの中で起きた。

 日本だけが悪かったのか。そう問いかけること自体は、もっともだと思う。

 欧米の帝国主義・植民地支配も血にまみれ、卑劣なものだった。スペインは中南米を蹂躙した。イギリスはインド・アフリカ・豪州・中東などを牛耳り、中国にもアヘン戦争を仕掛けた。フランスは西アフリカやインドシナを、オランダはインドネシアを支配した。アメリカは先住民を踏みつけにして生まれ、ハワイを侵略し、アフリカ系の人々を奴隷としてこき使った。

 第2次大戦で言えば、アメリカの空襲や原爆投下による無差別大量殺害、旧ソ連によるシベリア抑留は重大な戦争犯罪である。東京裁判の大きな欠陥は、戦勝国の犯した罪を問わなかった点にある。

 歴史をめぐる議論は、そういった問題にも向かうべきである。ただし前提として、間近な記憶をもつ近隣諸国に「植民地支配・侵略をして申し訳なかった」と本気で反省を示さないと、説得力がない。

 人間の行動に置き換えてみれば、わかる。過去をきちんと反省できる人間こそ評価される。反省は、自分への誇りを傷つけることにはならず、むしろ価値を高める。

 そして過去は過去だけではない。国際社会の判断基準は時代とともに変わり、現在は平和の希求、各国の対等、民族自決、人権の尊重が理念になっている。その理念に基づいて行動する決意を示す意味でも、過去を反省し、他の国々や民族に敬意を払う。それが世界から信頼と尊敬を得る国になる道だ。

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