解説 中医協答申書にみる2016年度診療報酬改定  PDF

解説 中医協答申書にみる2016年度診療報酬改定

 中医協答申書および「個別改定項目」の特徴、その問題点を見ていく。なお、届出の必要性の有無は説明から省略する。

1.入院医療〜川下への流れ急に

 7対1入院基本料の平均在院日数の短縮は避けられた。しかし、「重症度、医療・看護必要度」の評価項目が変更されるとともに、該当患者割合が15%以上から25%以上に引き上げられる(9月末まで経過措置。200床未満は経過措置として17年度末まで23%未満)。短期滞在手術等基本料3の対象手術の追加により実質的に平均在院日数の計算が不利になったこと、自宅等退院患者割合が80%に引き上げられたことと合わせ、類下げを迫られる病院が少なからず出てくる。

 一般病棟7対1病棟を2病棟以上有する病院が10対1に変更する場合、2年間に限り、7対1病棟と10対1病棟の両方を保持できる取り扱い(病棟群単位の届出)が導入される。ただし、17年度からは一般病棟のうち7対1の病床数を60%以下にし、18年度以降はゼロにしなければならない予定だ。慎重な判断が求められる。

 地域包括ケア病棟入院料の包括範囲から手術、麻酔が除外され、出来高算定できるようになった。もともとポストアキュート(急性期経過後に引き続き入院医療を要する状態)とサブアキュート(在宅や介護施設などで症状が急性増悪した状態)の患者の両方を受け入れることが期待されていたが、手術が包括されていたためサブアキュートの患者の受け入れ機能を担うことが難しかった点を改善した。

 療養病棟では入院基本料2にも医療区分2・3(医療必要度が高い状態)の患者割合が合計5割以上という施設基準が導入された(9月末まで経過措置)。満たさない場合も95%で算定できるが、非常に厳しい施設基準が唐突に導入された感がある。該当しない患者の退院を促進する動きも出てこよう。

2.外来医療〜かかりつけ医機能の強化

 認知症の患者に対する主治医機能の評価として認知症地域包括診療料、認知症地域包括診療加算が、小児かかりつけ医機能の評価として小児かかりつけ診療料が新設された。

 再診料の認知症地域包括診療加算は、地域包括診療加算を届け出た診療所において、(1)認知症以外に1以上の疾患(疑い除く)を有する、(2)1処方につき「内服薬の投薬が5種類以下」かつ「向精神薬の投薬が3種類以下」の条件を満たした場合に算定できる点数で、地域包括診療加算より10点高い。もともと地域包括診療加算の対象病名に認知症が入っているが、中医協で「高齢者では6剤以上の投薬が特に有害事象の発生増加に関連している」「服薬する薬剤数が多いほど服薬アドヒアランスが低下する」と報告された結果、認知症患者に対する減薬を評価した点数とも考えられる。

 小児かかりつけ診療料は、(1)小児科外来診療料を届出、(2)時間外対応加算1か2を届出、(3)小児科又は小児外科の専任の常勤医がいる、(4)地域の小児科領域の社会的活動に参加している等が施設基準である。患者・家族からの電話等に常時対応し、専門医療機関等との連携が求められている。対象患者は3歳未満だが、3歳未満で当該診療料を算定したことがある患者は未就学児まで算定できる。各区分の点数は小児科外来診療料より全て30点高く、施設基準や算定要件を強化した点数と言える。

 問題はこれらの点数が新設された背景に透けて見えるものだ。「保健医療2035」で厚労省は20年までに「ゲートオープナーとしてのかかりつけ医を育成、全地域へ配置」すると明記した。言い方は異なるが期待しているのはゲートキーパー機能であろう。15年6月に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針2015」は「かかりつけ医以外を受診した場合に定額負担を導入すべき」と打ち出した。16年度末までに結論を出し、17年の通常国会に法案を提出するとしている。16年4月から紹介状なしに大病院を受診した場合、一部負担金の他に初診時5,000円、再診時3,000円の定額負担を支払う。医療機能別に定額負担を設定する手法が既に導入されている。協会は患者のフリーアクセスを阻害する制度改悪に断固反対していく。

3.在宅医療〜単一建物で何人診療したかで細分化

 前回改定に続き、在医総管(在宅時医学総合管理料)が大きく組み替えられた。施設向けの特医総管(特定施設入居時等医学総合管理料)は、医師又は看護師の配置義務のない有料老人ホーム、サ高住、グループホームの入所患者も対象となり名称から「特定」の文字が消えた。

 また、16年3月までは、月に1回でも訪問診療料の「同一建物居住者以外833点」を算定していれば、同一建物居住者以外の在医総管・特医総管を算定できたが、4月以降は同月に単一建物に居住する患者を何人診療したかで判断し、1人、2〜9人、10人以上の3区分で算定する方法に変更された。

 さらに、末期の悪性腫瘍や指定難病などの「別に厚生労働大臣が定める状態の患者」は引き上げられたが、「それ以外の患者」は引き下げになる。加えて、月1回の訪問診療で管理している場合の区分が新設された。

 協会は、在医総管は「個別の患者ごとに総合的な在宅療養計画を作成し、定期的に訪問して診療を行い、総合的な医学管理を行った場合の評価」であり、「何処で何人診療したか」で点数に格差をつけるのはおかしいと繰り返し主張しており、厚労省に何度も改善を申し入れてきた。また、患者の状態に応じた点数の評価も、加算点数か出来高で行うべきである。地域で支えなければならない患者が増加する一方、このような改定で在宅医療の質と量が担保できるのか、担当する保険医の意欲が続くのか疑問である。

4.薬剤をめぐる改定〜減薬・残薬対策、投与制限、後発品促進

 (1)「7種類以上の内服薬投薬を行った場合の算定制限」は廃止されなかった。一方、6種類以上の内服薬が処方されている患者について、内服薬を2種類以上減少した場合に算定する薬剤総合評価調整管理料(250点、月1回)が新設された。別の医療機関・薬局に照会・情報提供した場合、連携管理加算(50点)を加算する。

 (2)処方せん交付時に、後発医薬品が存在する全ての医薬品が一般名処方されている場合の一般名処方加算1(3点)が新設された。また、後発医薬品の使用割合が高い院内処方の診療所について、処方料に外来後発医薬品使用体制加算(70%4点、60%3点)が新設された。

 (3)医療機関と薬局の連携で残薬確認と残薬に伴う日数調整を実施できるよう、処方せんの様式を改定し、対応に関するチェック欄を新設した。

 (4)調剤報酬において、処方医と連携して患者の服薬状況を一元的・継続的に把握した上で服薬指導等を行うこと、24時間の相談に応じること等を評価したかかりつけ薬剤師指導料と、その施設基準を満たした上で、医療機関が地域包括診療加算等を算定している場合の点数としてかかりつけ薬剤師包括管理料が新設された。厚労省は15年10月に「患者のための薬局ビジョン」を公表、「対物業務から対人業務へとシフトを図る」としたが、それを体現した改定。

 (5)入院外の患者に1処方に70枚超の湿布薬を投薬した場合は、調剤料、処方料、処方せん料、調基料は算定できなくなった。やむを得ず70枚を超えて投薬する場合は、その理由をレセプトおよび処方せんに記載する。70枚以内であっても、1日分の用量又は何日分に相当するかの記載が必要になる。

 この他、薬価制度については、市場拡大再算定による薬価の見直し、年間販売額が極めて大きい品目に対する市場拡大再算定の特例の実施、新規収載された後発医薬品の価格引下げ、後発医薬品の数量シェア目標の引上げを踏まえた長期収載品の特例的引下げの基準の見直し等の改定が行われる。

5.リハビリテーション〜要介護者等への提供、ますます厳しく

 18年の医療・介護同時改定を見据え、要介護者等に対する医療保険のリハビリテーションの算定制限が強められている。要介護者等への維持期リハは17年度末まで算定期限が延長されたが、点数は90%に減算から60%に減算へ大幅に引き下げられた。加えて過去1年間に介護保険の通所リハの実績を届け出ていない場合、更に80%に減算しなければならない。

 また、脳血管等リハ、運動器リハ、廃用症候群リハ(新設)を実施している要介護者等のうち、算定日数上限を3分の1経過した患者は、直近3カ月以内に新設の目標設定等支援・管理料を算定していないと、10月以降90%に減算しなければならない。

 一方、脳血管等リハに区分されていた廃用症候群リハが独立した。ただし、算定日数上限が120日に短縮されている。

 非常に問題があるのは、回復期リハ病棟入院料にリハのアウトカム評価が追加導入されたことだ。退棟患者のFIMの改善が平均で一定の水準を満たさない場合は、1日6単位を超える疾患別リハが包括される。医療の個別性、不確実性を考慮しない取扱いであると同時に、今後様々な点数に組み込まれる可能性がある。

6.精神科医療〜“地域移行”等促進

 前回改定で導入された向精神薬多剤投与の制限が強化された。抗うつ薬、抗精神病薬は4種類以上から3種類以上に変更され、かつそれぞれについて3種類の場合に限り患者の病状等によりやむを得ず投与する場合は除外されることとなった(臨時投薬の場合は認められる)。

 また、3種類以上の抗うつ薬、抗精神病薬を投薬している場合、通院・在宅精神療法が50%に減算される(頻度が一定以下等の条件を全て満たす場合は減算から除かれる)。

 医師の処方権の制限も問題だが、投薬の種類数により精神療法を引き下げるのはあまりにも乱暴だ。

 さらに、精神科デイ・ケア等について最初に算定した日から1年を超えて算定する場合であって週4〜5日を算定する場合は、特に必要性が認められる場合に限定される。

 入院点数では、退院支援を重点的に実施する精神病棟について、地域移行機能強化病棟入院料が新設された(1日1,527点)。精神科専門療法等を除き包括される。届け出ている精神病床の5分の1を減床する等の施設基準がある。精神病床の削減の具体化に踏み込む、なりふり構わぬ手段に出たと言える。

7.電子情報の評価

 診療情報提供料(1)に検査・画像情報提供加算が新設。患者紹介の際に主要な診療記録を電子データでクラウドにアップ又は送信した場合に加算する。受けた側もクラウドで閲覧または受信して活用した場合、新設の電子的診療情報評価料が算定できる。

 4月からは、電子的院外処方せん発行のための法整備が行われる。15年6月「日本再興戦略」は「18年度までに地域医療情報連携ネットワークの全国各地への普及を実現する」と打ち上げ、地域における患者情報の電子的共有化の普及が目指されている。16年度改定は、この点で大きな節目となる。

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