裁判事例に学ぶ/医療事故の防止(19)
医療事故の防止から医事紛争の防止へ
医療事故防止へのポイントを印象深く汲み取って、日常臨床の場でも想起でき、医療上の適正な判断・行動に役立ち、紛争防止にも益する内容を報知したいものと、18回にわたり代表的かつ重要と考えられる訴訟事例を抽出して略記した。客観的かつ正確で、簡明かつ具体的な記載を旨とした。会員・読者から2〜3質問を受けたので、連載予定20回の内に回答したい。
問1:地裁・高裁・最高裁と各々の裁判所で判決が異なる事例があるが、なぜ判断が異なるのか? 医療従事者としては、どの判決の判断を正しいと考え、どれに従えばよいのか?
問2:医事紛争事例を協会に相談した際、医療機関側に過失はなく責任はなさそうとのアドバイスであったが、その後、提訴され逆に有責の判決がでた事例とか、あるいはその逆の事例もあったと聞くことがある。なぜ両者間で判断の相違が生じるのか。
回答1:第1審裁判所から終局判決が出た後、それに対して当事者が控訴(不服を申し立て)をすると、第2審で判断の維持もしくは変更がなされる。更に上告されると第3審となり同様である。裁判は原告から提起されてはじめて、口頭弁論が開かれ、当事者が判決の基礎となる事実を裁判所(官)に提示して判断させる(弁論主義)。それには主張する者が証拠資料を示して(挙証責任)、説得的に裁判官に事実経過を認識させ、真実であるとの心証を形成させて事実認定させ、先行基準となる法律に則り妥当な判断を求める攻撃・防御の場である。
上訴(控訴・上告)での目的が当事者の不服に理由があるか否かの審査にあり、上級審は下級審とは独立して主張・証拠を検討する。また、主張や証拠が追加される場合もある。従って、主張・証拠の評価の変更や異なる心証形成が生じ得るので、判断の異なる場合があっても当然である。
訴訟当事者は、より上級審での判断に従う。
他の訴外の医療従事者には権利・義務が発生せず、何ら債権・債務関係も生じないので判決主文に従う必要はない。質問者の意図が、判決文に記載された事実および理由に関して、事例には医師の鑑定や意見が付される場合もあるが医療の経過や実務への裁判所の認定に対して、医学・医療の専門的資格を有し特定分野での知識・技能を有する実務家としての見地から意見が有るということならば、賛成・反対に拘わらず、実証的・論証的に明文での説得的な意見表明をいただきたい。
回答2:協会では、相談を受けた事例については、医療事故案件調査委員会等を開催して、患者の主訴・症状、医師の診察(問診含む)、検査、治療的処置や、後者への適応判断、説明などの適否について適正に調査して判断している。しかし、委員会での判断はその時点で提供された資料と経過説明を基とし、専門医としての知識・経験により公正に行っているが、明文の規定による職権(憲法76条3項)はなく、当然に裁判所への直接的な影響力の行使もない。
(文責・宇田憲司)