裁判事例に学ぶ医療事故の防止(7)

裁判事例に学ぶ医療事故の防止(7)

急変・救急時の転医・転送には
病状・理由など後医への情報伝達を十分に

 平成1年11月14日午後8時10分、20歳男Aは神戸市にて自動車運転中に反対車線から正面衝突された。須磨日赤病院に救急搬送され(8時29分)救急車内で診察され、死亡の危険が高いとの診断で、救命救急センター(3次救急)転送を指示された。救急管制室は神戸市立中央市民病院同センター(3次救急)に電話して(8時34分)「打撲外傷は大したことなく、呼吸・心拍異常なく、意識混乱はJCS30で、前医は要3次救急と言った」など伝えたが、「今夜は整形外科も脳外科もないとのことで、こちらへ連れて来るのも遠く、受け取れないとのことです」など回答され、次に神戸大学病院には「手術中」と断られた。兵庫県立西宮病院は受入回答で(8時48分)、9時13分収容された。この間、呼吸困難で心停止が2回あったが意識喪失はなかった。両側肺挫傷・右気管支(中間幹)断裂があり応急処置のうえ手術準備し、翌15日午前1時頃から6時頃まで両側開胸術が実施されたが、6時50分呼吸不全で死亡した。

 Aの遺族は、市に対し、当直医師が正当な理由なく応召義務(医師法19条1項)に違反して診療拒否をし、適切な診療を受けられず被った肉体的・精神的苦痛への慰謝料200万円を請求した。

 裁判所は、医師法19条1項「診療に従事する医師は、診察治療の求めがあった場合には、正当な事由がなければ、これを拒んではならない」は公法上の義務規定で、その違反が直ちに民事上の責任に結びつくものではないが、患者保護の側面をも有すると解されるところから、診療拒否をして損害を与えた場合は医師の過失の一応の推定がなされ、医師側で正当事由たる具体的事実(医師の不在や病気、診療中・特に手術などで事実上不可能など)を主張・立証する必要があるとした。当日の夜間救急では、担当医師3人、専門医師は内科、循環器内科、小児科、外科、脳外科(宅直で病院到着に要60分)、整形外科(同45分)、産婦人科、麻酔科、他科の各1人、部長医師(脳外科)1人の計13人が担当して、外科医師の在院もあり、その氏名や診療従事状況など具体的事実をもって正当事由を明らかにしなかったとして、医師の過失を推認し市に150万円の支払いを命じた(神戸地判平4・6・30、判時1458・127)。

 昭和54年11月22日1歳1カ月女児が、気管支炎または肺炎症状で、救急告示の君津中央病院(約300床)小児科に紹介されたが、満床を理由に入院を断られ、救急車内の診察で転送に耐え得ると診断され、1時間後に他病院で収容・加療されたが、23日午後3時死亡した。菓子類の誤嚥による窒息が疑われた。入院の人的・物的能力(他科病床・病室間空間の利用可能性)などから、満床のみでは正当事由とされず、診療拒否と死亡との因果関係を認め2790万円の支払いが命じられた(千葉地判昭61・7・25、判時1220・118、判タ634・196)。

 断るにも時間外・休日輪番医を教示できれば親切である。

(文責・宇田 憲司)

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