裁判事例に学ぶ医事紛争の防止(15)
宇田憲司
内部資料の開示には要件検討を厳格に
国立岡山大学病院で、2001年6月30日に心室中隔欠損症に対してパッチ閉鎖術が実施されたが、大動脈弁損傷を来たす医療事故が生じ、患者は国(病院側)に損害賠償を請求して提訴した。
国は、1本件医療事故の概要、現在の状況、大学の見解および対応検討、今後の見通しなどを記載した文部省への報告書と、2院内の病院長などへの報告書とを所持していた。
民事訴訟では、自己の主張を相手が認めない場合、裁判官が、合理的な疑いをはさまない程度に確信をもって事実判断できるには、証拠を提示する必要があり、所持する文書を提出して書証の申出をする。また、別の所持者には、提出の命令を申し立てて入手することになり、原告は裁判所に提出命令を申し立てた(民事訴訟法219条)。
文書が、(1)挙証者と所持者の間の法律関係について作成されたとき(同220条3号後段)は提出を拒めず、(2)公務員の職務上の秘密に関する文書でその提出により公共の利益を害し、又は公務の遂行に著しい支障を生ずる恐れがあるもの(同4号ロ)や、(3)専ら文書の所持者の利用に供するための文書(国又は地方公共団体の場合、公務員が組織的に用いるものを除く)(同4号ニ)は除外される。
第1審では、(1)に当たらず、(2)公開により、率直な意見の交換もしくは意思決定の中立性が不当に損なわれ(行政機関の保存する情報の公開に関する法律5上5号)、争訟等に関わる事務に関して、国などの財産上の利益や地位などを不当に害するおそれ(同6号ロ)を認め、除外文書とした。また、(3)作成目的、記載内容、現在の所持者が所持するに至るまでの経緯、その他の事情から判断して、専ら内部の者の利用に供する目的で作成され、外部の者への開示の予定がなく、開示されると個人のプライバシーが侵害されたり、自由な意思形成が阻害されたりするなど、所持者の側に看過し難い不利益が生ずるおそれがある文書で、特段の事情もなく(最決平11・11・12引用)、更に、開示予定のない公務文書も4号ニに該当するとして、却下した(岡山地決平15・12・26、判例1874号70頁)。
即時抗告され、(3)は4号ニの括弧書きから失当としたが、(1)(2)の判断を維持して、棄却した(広島高裁岡山支決平16・4・6、同号69頁)。
例えば、協会等が医療機関からの文書を所持していても、裁判所の提出命令や更に諾否には厳正な手続きや要件検討((3))が要る。また患者の個人識別情報の記載がなくその特定が困難な場合は不見当で提出不能である。(JCOAニュース94号参照)