裁判事例に学ぶ医事紛争の防止(10)  PDF

裁判事例に学ぶ医事紛争の防止(10)

宇田 憲司

国民の医療を受ける権利の保障には療養担当規則に適う診療・審査・証明を

 ALLの再発治療への減点査定に対して、第1審裁判所は、人工腎臓5回分を復活した(本紙前号本欄(9)参照)。

 控訴審では、更に、本件のごとく救命のための治療に関する指定医療機関による診療報酬請求に対して減点査定をした場合、Y2は、審査連絡書、増減点連絡書によって、診療報酬が何故、どのような資料不足のために減点査定されたかが指定医療機関にわかるように指摘し、再審査の機会に審査資料の補完が適切になされるよう配慮すべき義務があり、その義務を履践することなく減点査定をし、その結果、不適正な審査内容となった場合、これを受けて都道府県知事(本件ではY1)がなした決定(生活保護法第53条第1項)も違法になる、とした。

 指定医療機関の診療方針および診療報酬は国民健康保険の例によるので(法第52条第1項)、診療報酬の額の決定には、1診療内容が療養担当規則に適合しているかどうか、2請求点数が算定方法告示に照らして誤りがないか否か、が適切に審査されねばならず、また、特別審査委員会ではレセプトに加え、「診療日ごとの症状、経過および診療内容を明らかにできる資料」を添付して書面審査するとされ、決定においては療養担当規則等の具体的運用が合理的であったか否か、また審査には12が適切に審査されたか否か、についての審理を要するとされた。

 血漿交換療法に関しては、厳密な診断法に従えば劇症肝炎の範疇に入らないという理由だけで本件のような多臓器不全の肝障害について同療法が有用性を持つにもかかわらず適法と認めないのは、療養担当規則の運用としてあまりに機械的で合理的と認められず、また、同療法の1回分が認められたことから、適応の劇症肝炎と認められたとXに推定できても、Aの症状からは担当医の裁量の範囲内の3回がなぜ過剰か、どのような資料が不足するため2回分が減点査定されたか、審査連絡書の「血漿交換は必要の限度と願います」のコメント記載などからは推測しがたく、むしろ1回でも過剰となる筈ならばその理由を概括的にでも明らかにしてXに反論・説明の機会を与えるなり、施行および回数の相当性について説明する機会を与えるなりせず、不適切な審査内容となり、2回分の減点査定を違法とした。

 人工腎臓には、適応と認めながら、増減点連絡書に減点査定の理由を「B」(過剰)と記載するだけで、審査連絡書にコメントなく、審査資料補完の機会を奪う手続違反をして不適正な審査内容を招来したとして、5回の減点査定を違法とした。

 薬剤投与は、療養担当規則に必要があると認められる場合に行うと定められ、薬剤添付文書に効能・効果、用法・用量などの使用上の注意が記載されている。「B」とされたマーロックR、トロンビンには、再審査に際して提出された症状経過ならびに再審査理由書には、容量を超える投薬の必要性などを基礎づける客観的資料の追加がなく、モニラックR(「B」)には、最高投与量を継続する必要性を基礎づけ得るアンモニア値等のデータ等の提出なく、減点査定を維持した。「A」(適応外)とされたD−ソルビトールは、併用にてケイキサレートRの便秘を防止する効用・効果(薬剤添付文書に記載ない)から適応となり得るがその旨の記載なく、第一ブドウ糖Rの透析液への付加(「A」)も、必要性を容易に説明できたのに記載せず、減点査定が維持された。「A」判定のフロリードFRは、臨床的に深部感染症、特に敗血症が疑われ抗生剤を2〜3日投与しても解熱傾向がない場合、抗真菌剤の投与を一般的処置と認め、復活した。計100万830円の支払いをA1に命じた(大阪高判平9・5・9、判タ969号181頁)

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