裁判事例に学ぶ医事紛争の防止(7)  PDF

裁判事例に学ぶ医事紛争の防止(7)

宇田憲司

健康保険でよりよい医療を国民に

 本件は、保険診療と自由診療を併用する混合診療では、特定療養費(昭和59年改正以降平成18年改正前の健康保険法(旧法と略す)第86条平成18年改正以降は保険外併用療養費)による療養などの要件を満たさぬ場合は、保険診療相当部分についても保険給付を行えないとする厚生労働省の解釈(混合診療保険給付外の原則)が、地裁では否定され、高裁・最高裁で認められた事例である。

 X(原告・被控訴人・上告人)は腎臓がんに罹患し神奈川県立がんセンターを受診し、平成13年9月から、インターフェロン(IFと略す)療法(診療報酬点数表に収載)に高度先進医療であったインターロイキン2を用いた活性化自己リンパ球移入療法(LAK療法と略す。特定療養費のが支給可能で、IF療法にも支払われ得る)を自由診療で併用して受けていた。しかし、同センターは当時、高度先進医療ができる特定承認保険医療機関の承認を受けておらず、平成17年10月、この併用療法は混合診療となり継続できず、他の承認医療機関を紹介するとXに告げた。

 そこで、Xは、上記の併用療法を受けた場合、前者は保険診療として保険給付を受け、後者は保険診療の対象外の自由診療として自己負担すべきと考えるのが自然であり、混合診療を明示的に禁止した法の規定はなく、法の下の平等を定めた憲法第14条に違反するとも主張し、前者について健康保険法に基づく療養の給付を受けられる権利を確認する行政訴訟を提起した。

 国は、複数の医療行為の実施は、単なる併存ではなく、不可分一体の新たな医療行為であって、特定療養費制度(保険外併用療養費制度)では給付対象を限定的に掲げて保険診療相当部分へも療養費が併給され、これに該当しないものは、全額、自由診療として患者が負担することが予定されていたと主張した。

 東京地裁は、法解釈上、個別的にみれば法およびその委任を受けた告示等により法第63条第1項の「療養の給付」を受ける権利をXは有すると解されるにもかかわらず、自由診療行為が併用されることにより、いかなる法律上の根拠によってこの権利を有しないことになるか、法律上は解釈できず、XにはIF療法を受ける権利があるとの確認判決をした(東京地判平19・11・7、判例時報1996号3頁)。

 控訴審では、保険外併用療養費制度(法第86条:旧法の特定療養費制度)について定めた法の以下の解釈によって、同制度に該当するもの以外の混合診療については、保険診療相当部分を含めて、すべて「療養の給付」に当たらず、保険給付を受けられないと解すべきとした。高度先進医療に関わる療養費と共に、従前は歯科診療(歯科材料)と入院料(室料)について健康保険行政において運用上認められていた差額徴収(混合診療)の取扱いを選定療養として、両者を特定療養費(旧法第86条)として「療養の給付」の対象から除外し現金給付の形式をとることにして、法令上明快に位置付け、適正なルールの下での保険給付の実施としたもので、保険診療と自由診療との混在する混合診療は、特定療養費の支給の対象となる療養(診療)に限られ、これに当たらない場合は保険給付をしないとして(但し、法は、保険給付をしない場合を明記していない)、混合診療を原則禁止したと解するのが相当である、として地裁判決を取り消した(東京高判平21・6・16、判タ1310号66頁)。

 上告審では、高裁判決が支持され、判決が確定した(最三判平23・10・25、LLI/DB判例秘書)。

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