行政刷新会議WGが「事業仕分け」関理事長が抗議の談話 医療現場と国民の期待に背くもの

行政刷新会議WGが「事業仕分け」関理事長が抗議の談話
医療現場と国民の期待に背くもの

 政府の行政刷新会議(議長・鳩山由紀夫首相)のワーキンググループ(WG)による「事業仕分け」が、11月11日からスタートした。行政刷新会議は、新政権の「目玉」として発足し、「国民的な観点から」「国の予算、制度その他国の行政全般の在り方を刷新」し、「国、地方公共団体及び民間の役割の在り方の見直しを行うため」内閣府に設置された。今回の「事業仕分け」は、2010年度予算概算要求のうち、「無駄」な事業を削るとして行われている。しかし、実際の議論やその結果は、現場の医療者や、医療保障の充実を求める国民の期待とは程遠く、協会は11月16日付で関理事長の談話を発表し、作業そのものの撤回を求めた。

 事業仕分けで対象となるのは、約210事業・計447項目。厚生労働省には「診療報酬の配分」や医師確保、救急・周産期対策の補助金等が含まれる。

 WGによる仕分け作業は、第1弾が11日から17日、第2弾が24日から27日の予定で開催。WGは省庁別に3つに分かれ、同時進行で行われる。厚生労働関係の仕分けを行うのは、第2WGであり、評価者は国会議員、副大臣・政務官、民間有識者で構成されている(名簿は下図)

行政刷新会議 第2WG評価者名簿(民間有識者)

 11日のWGの議論では、診療報酬の配分の見直しを行うことで一致。特に「収入が高い診療科の見直し」や「開業医・勤務医の平準化」について、多くの評価者が賛成した。

 評価者のコメントでは「整形外科、眼科、耳鼻科、皮膚科の点数を下げ、産婦人科、小児科、救急医療の点数を上げるべき。開業医の点数を下げ、勤務医に合わせて欲しい」「再診料、特定疾患療養管理料の診療所優遇を廃止すべき」等が挙げられた。このままでは、この結果が診療報酬改定論議に反映されることとなる。

 また、12日には概算要求で574億円を計上している「医師確保、救急・周産期対策の補助金等」を半減させる判定を行った。評価者のコメントでは「補助金の効果は小さいため、医師の地域偏在、診療科における不足にはあまり効果がない。診療報酬の配分是正で対応すべき。このため、補助金は廃止の方向で進むべき」「診療報酬や補助金によるインセンティブだけでは不十分。公金を投入して医師を養成している以上、ある程度の『規制』が必要」等と述べられている。

 この模様は連日報道されているが、「無駄」として切り捨てられようとしている国の事業には、国民生活に直結するものも少なくないことは、ほとんど報じられない。そして、議論内容は、これまでの政府が進めてきた「構造改革路線」と何ら変わらないばかりか、その実現が一気に押し進められるのではという危惧すら抱かせるものとなっている。

 協会は、現場医療者の立場から、今回の作業自体が反国民的なものであることを、引き続き告発する。

 なお、協会の談話は17日の朝日新聞等で報じられた。

 また談話について、阿部知子議員(衆・社)からは「全てご指摘の通り」、平智之議員(衆・民)からも「(診療報酬を)勤務医へという議論は気になっていた。これからもご指導願いたい」と連絡をいただいた。

行政刷新会議ワーキンググループによる
「事業仕分け」に抗議する談話

京都府保険医協会理事長 関 浩
2009年11月16日

 この11月11日から、行政刷新会議のワーキンググループが、次年度予算編成に向けた「事業仕分け」作業を行っている。これを我々は、国民の貴重な税を真に生かすための取り組みと見て、期待を寄せていた。

 しかし、そこで今行われている議論と結論は、あまりにひどい。少なくとも、医療分野の課題については、非常識極まりない内容であり、強く抗議する。

 新政権は、「構造改革」による熾烈な医療・社会保障攻撃に反対し、公的な医療保険制度と国民の医療を守るとの立場で方針を打ち出し、それに対する多くの国民の支持を得て政権を獲得したのではなかったのか。民主党が「マニフェスト2009」で見せた、医療全体の水準を引き上げようという姿勢はどうなったのか。我々は今、新政権に対するこれまでの我々の期待と評価は、誤りであったかと言わざるをえなくなっている。

 我々医療者に関わりの深い事業の検討は、第2ワーキンググループが行っているが、そこに民間評価者(仕分け人)として参加しているメンバーは、医療や社会保障の現場を横目で見ながら、居丈高な発言を繰り返す「改革系」の学者やコンサルタント、評論家、経済関係者たちばかりである。現場の医療者や医療保障、社会保障に関するコモンセンスを持った研究者などは、一人として加えられていない。

 さらに、その検討のために提出されているデータ・資料類は、「はじめに結論ありき」と言われても仕方のない、意図的な選別によるものばかりである。

 医療や社会保障に関する現場経験と議論の蓄積のないメンバーが、このような資料類や知識をもって議論して、本当に現場や国民が望んでいるような結論を得られるはずがない。そもそも医療分野の問題を、このような場で議論すること自体、見識が疑われる。

 この第2グループで取り上げられた仕分け対象事業について、その議論の具体的な内容とそれに対する批判は別稿で詳細に論ずる予定であるが、この仕分けの結果、次回診療報酬改定については、「勤務医と開業医の報酬の平準化」「整形外科、眼科、耳鼻科、皮膚科など収入が高い診療科の見直し」「改定率の検討に際しての公務員人件費引き下げやデフレの反映」といった方針が、中医協における改定作業に対する指針として持ち込まれる可能性が高まった。

 この「事業仕分け」という仕組みの持つ反国民的、反医療現場的性格を、許すことはできない。この作業において示された結論が、錦の御旗扱いされ、今後の医療・社会保障の行方を歪めることのないよう、断固、抗議するとともに、「事業仕分け」作業そのものの中止・見直しを要求する。

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