耳鼻咽喉科診療内容向上会レポート
耳鼻咽喉科診療内容向上会のもよう
耳鼻咽喉科領域における薬疹の診断と治療について解説
梅雨の晴れ間の中、第42回耳鼻咽喉科診療内容向上会が、6月13日京都府医師会館において京都府耳鼻咽喉科専門医会、京都府保険医協会、シェリングブラウ株式会社の共催で開催された。31人の医師が参加した。専門医会の豊田弥八郎会長と保険医協会の関浩理事長の挨拶の後に、講演会が行われた。同日に、京都府医師会による第1回医療安全講習会が行われており、医療事故に関しての講演会が重なり、日常診療における医事問題の重要性が伺えた。
講演は、京都市立病院皮膚科部長の小西啓介先生による「耳鼻咽喉科領域における薬疹の診断と治療」と京都府耳鼻咽喉科専門医会医事問題担当理事の大前隆先生による「京都における耳鼻咽喉科の医療事故・医事紛争の現状」の2つの演題でご講演いただいた。
まず、小西先生から、薬疹について、臨床型や分類などの基本的な内容から、京都市立病院皮膚科におけるいくつかの症例を提示していただいた。
薬疹は中毒疹に属し、軽症型と重症型と大きく分類される。臨床型は様々な型を呈するため、皮膚症状だけで診断するには困難である。年齢分布は、20歳代と50歳以上にピークが見られ、女性に多くみられる。原因薬剤としては、中枢神経系用薬と抗生物質製剤がほとんどである。特に抗生物質では、ニューキノロン系(スパラR、メガロシンRなど)や抗ヒスタミン剤(ゼスランRやニポラジンRなど)での光線過敏型薬疹、セフェム系やPC系の蕁麻疹型薬疹・麻疹型薬疹がみられる。中枢神経系用薬では、総合感冒剤や解熱鎮痛消炎剤の固定薬疹型薬疹が多くみられる。
また服用後、30分から1時間で蕁麻疹型薬疹が、24時間後には固定薬疹型薬疹が、1週間後には麻疹型薬疹が出現しやすいと報告されており、感作が成立するこの時期に薬疹が出易いため注意が必要であると強調されていた。原因薬剤の決定には、入院の上、点滴をしながら再投与法、オープンテスト、プリックテスト、皮内テストやうがいテストを行い同定する。また血中好酸球の増加が見られると、ほぼ薬疹と診断される。最近の薬疹報告例では、ピロリ菌除菌で使用されるランサップRが多い。PC系の交叉反応の可能性やアモキシシリン含有が見逃されるケースが多いようである。
重症型薬疹として、TENやSJS(Stevens-Johnson症候群)、DIHS(薬剤性過敏症症候群)などがある。特にHSVやマイコプラズマなどによる先行感染がある場合の多形紅斑型薬疹では、SJSに移行することが多いため注意が必要である。テグレトールRやアロプリノールRなどで生じやすいDIHSでは、紅皮型の皮膚症状に加えて、内服開始してから数週間後から発熱・肝機能障害、異型リンパ球出現、好酸球増多などがみられ、HHV6の再活性化が生じるとされている。
治療は、原因薬剤投与中止、ステロイド全身投与と免疫グロブリン製剤の投与が有用であるが、薬剤投与中止後も遷延化しやすいため、減量などを急ぎすぎないように注意する必要がある。
そのほか、伝染性単核球症、HIV、梅毒などの感染症による皮疹との鑑別も注意する必要がある。稀ではあるが、シイタケによる皮膚炎などもある。
最後に、薬疹はいつでも、だれにでも起こりえることを念頭において、日常診療を行う必要があると強調されていた。
京都における耳鼻咽喉科の医療事故・医事紛争の現状
次に、大前隆先生より医療事故・医事紛争の現状について、(1)大前先生ご自身が経験された事例、(2)全国における医療事情、(3)京都府における実情、(4)耳鼻咽喉科の領域別の医療事故・原因につきお話をいただいた。
最近の全国医療事情としては、昨年で過去最多の1440件の事故報告がされており、全国的に医療訴訟提訴件数は04年以降年1千件を超え増加傾向にあった。耳鼻科の件数は20〜25件が訴訟となっている。
京都府における医療事情としては、協会調査を主とした年間70〜80件と医師会調査と病院関係事例を加えたものが概算値と考えられる。診療科別では内科、外科、整形外科、産婦人科がワースト4科とされ、80〜90%を占めている。耳鼻咽喉科は3%程度であまり変動はなく、過去17年間で39例、また医師会では過去10年間で3例と、年間通して1〜5件というのが現状である。耳鼻咽喉科の解決状況は過去24年間で46件の医療事故・医事紛争があり、内29例63%で解決、未解決が9件、そして訴訟に至った事例は9件であった。
耳鼻咽喉科領域別の事故について、各領域に分けて説明があった。まず耳科領域医療行為別事故・紛争原因として、1位に処置(耳処置による鼓膜穿孔や通気処置後の皮下気腫・脳気症等)、2位に手術、3位に診断(突難の診断の遅れ・見逃しなど)、4位に治療という順。特に手術では、顔面神経麻痺や難聴・耳鳴、味覚障害などの原因となる手術として、鼓室形成術56・4%、鼓膜チューブ留置術28・2%となっている。鼻科領域の原因としては、手術(69%)、処置(24%)、診断(7%)の順である。手術では特に、ESSで79例の事故報告があり、視機能障害や髄液漏、頭蓋内感染症などが挙げられている。また鼻中隔矯正術後の外鼻変形などもトラブルになっている。処置では、過去5年で33件の報告があり、上顎洞穿刺洗浄による出血などが9例、レーザー治療やトリクロ、電気凝固による顔面皮膚損傷5例などがみられる。口腔咽頭領域では、扁摘による歯牙損傷・バイポーラーによる口唇熱傷、甲状腺手術などの術後出血・気道閉塞による低酸素脳症、リンパ節摘出時の副神経損傷などが報告されている。薬剤関係による事故は、ケナコルト皮下筋注による皮膚陥没や損傷、抗癌剤の誤使用、キシロカインショック、ブロー氏液による感音性難聴発生事例などがある。
過去10年間で京都府において、領域別では、鼻科10件、口腔咽頭5件、耳科2件、頸部5件、薬剤2件、管理その他が5件の計29件の事故件数が見られる。
いつ何時われわれの日常診療において、こういった事故が降りかかるかわからないため、しっかりとした自衛手段を持つべきであると痛感させられた。
また、最後に豊田会長より医療コンフリクトマネージメントのお話もいただき、非常に役に立つ講演会であった。
(右京・平杉嘉平太)